「これ、マミーがダディに歌ってた?」

クリスマスが訪れるにはまだ早い5月、なまえとの間に生まれた双子の弟が父親であるザンザスに問いかけた。
亡くなってしまった母の部屋に忍び込み、いつの間にか音楽デッキを操るようになった事にザンザスは驚く。

My love, My sweetと愛おしくてたまらない誰かに声をかけては、その者の苦しみを溶かす太陽になって見せる、という歌だ。

「・・・そうだな」

目の前でデッキの前に座り込み歌を聴く息子は覚えていた。なまえがよくその歌を歌いながらザンザスの周りをわざとうろついて、クリスマスの準備をしていた事を。
それはザンザスも同じで、きっと息子と同じ光景を思い出している。そして、蘇るのは彼女が初めてその歌を流しながら歌っていた時だ。

子供を身籠もるもっと前、結婚を前に控えた寒い夜でクリスマスが大好きだというなまえはずっと楽しげにクリスマスソングを流しながら談話室を飾り付けていた。随分と賑やかだ、と思っていたが刹那。なまえがザンザスの瞳をしっかりと見つめながら、デッキから流れてくる歌に合わせて歌いながらやってきたのだ。驚く彼の手を取ってはワルツを踊るように促していた。

愛する人の辛い過去を思いながらも明るい曲だった。太陽になるからね、と歌い上げる歌詞にはぴったりなのかもしれない。

『騒がしい女だな』

『その女があなたをずっと待ってたのよ、ザンザス』

そう言って後に続く歌詞にはDarling、Baby とあって、随分甘い呼びかけから始まるものだった。ザンザスをじっと見つめながら歌うなまえの瞳には確かに暖かなものが灯っていた。太陽になる、というならば彼女は冬の雪解けを誘う春の太陽だ。永遠の春の太陽をザンザスは思った。自分を慈しむような、残った傷跡を優しく潤すような、そんな暖かさがなまえからは溢れていた。溢れていなかったとしても、ザンザスには不思議とそう感じずにはいられなかったのである。

「マミーは空で何をしてるかな?」

「チョコでも食ってんだろ」

「違うよ」

自分から問いかけておいてそれか、とザンザスは思わずにはいられなかった。じゃあなんだ、と聞けば息子は舌ったらずな発音で答える。

「多分ね、マミーは太陽の光を集めてるの。
僕たちやダディが悲しい時にそれを降らせてくれるんだよ。それでマミーは疲れたらチョコを食べてお茶を飲んでお昼寝するの」

太陽の光、まだ幼い息子の頭に写っているものはなんだろうか。橙か黄色がわずかにかかった白く輝くような光だろうか。それを雲の上で積み上げている優しいなまえの様子をザンザスは想像した。

『ずっと曇り空でも私といる時ぐらいはきっと晴れやかよ、忘れないで』

こちらの強張りをほぐすような言葉をザンザスは思い出した。勝気な女だ、と思ったがそんな彼女が愛おしくてたまらなかった。
だが、愛するなまえには二度と会えない。触れることも出来なければ呼びかけられる事も出来ない。ならば、せめて、その太陽の光を見せに夢の中へ現れてほしい。ふと、ザンザスはそんな風に寂しげな気持ちになってしまった。


「そうか。なら早く寝て見せてもらえ」

「どうして?」

「夢の世界で待ってるかもしれないだろ」

寝かしつけるのはあまり得意ではないが、残念ながら今夜はルッスーリアもスクアーロもいない。レヴィは既に双子の姉の読み聞かせで苦戦している筈だ。なまえが言っていた美しい我が子を大事そうに抱え、ザンザスは愛する妻の部屋を後にした。

きっと翌朝にはなまえの集めた太陽の光がこの部屋を満たしているだろう、と思いながら。




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