瞳の中に赤い星雲が立ち込めている。
夜空に実在する筈の、生命の材料となった可能性のある物質もつ星雲だ。
寿命を迎えれば輝きが消えてしまうであろう孤高に輝く赤い星が永遠に輝き続けているせいで、彼の瞳の中は煌々と燃えるような星雲が立ち込めている。


その輝きと炎が、彼の瞳から溢れ出している生命によってなのか、彼の心臓から溢れている生命によってなのかなまえはもうわからない。

「だ、だめです」

なまえは壁際に座り込み、自分の心臓を奪われまいと胸元で手を纏めて握っている。
対して目の前でなまえを逃しまいと片膝をついて左手は彼女の可愛らしい顔の横に置かれている。

「ほ、ほんとに、お願いします」

そう言って顔を横に逸らした。
見ていられないのだ、ザンザスの明々としている瞳に目も当てられないのだ。目をそらしていても自身を瞳によって捕らえられていると分かるくらいに彼の眼差しは強く、彼の視線は熱い。
実を言えば2人はずっと思い合っていたのである。恥ずかしがり屋な彼女は彼に想いを伝える事も出来ず、どこか掴めない彼女を視線で追っていたザンザスはやっと彼女を捕まえれた。ぽろり、となまえが好きな人はザンザスであると友人に伝えたところでこの事件は起きた。

『あら、あんたの星の王子様よ』

『え、うそ、うそ』

『ねえ?ザンザス』

友人はくるりと踵を返してどこかへ行ったまま戻ってこない。
また、なまえが床に座り込んでいるのは別にザンザスのせいではない。想い人のザンザスの登場に驚き、彼女が勝手に躓き転んでしまっただけだ。そして彼はそれを良い事にしゃがみ込んでなまえを逃げ出さないようにしたのである。ああ、抜け目のない男だ。

「こっちを見ろ」

「ほんとにその、は、恥ずかしいから・・・」

なまえの頬から耳までに走っている色は緩やかな赤である。体の内側からじんわりと燃え上がった炎を肌は隠す事もせずに露に出してしまった。明々と輝くザンザスの瞳と異なり彼女の瞳はその炎のせいで潤み、薄く細そうな涙が目の縁に溜まっている。心臓の音は大きく、彼ら2人以外誰もいない廊下にはなまえの心臓の音が聞こえてしまいそうだ。

「なまえ」

「ひゃっ・・・」

ザンザスの手が恥ずかしさに埋もれる彼女の顎を掴んだ。

「何が恥ずかしい」

体温が高い、となまえは思わず思ってしまった。
ザンザスの体を巡るものはきっと自分とは違う、そんな体温の高さなのだ。粗暴な感じがどこどことなくあるがなまえの顎を掴んでいる手はまだ優しい。
恥ずかしい、彼と会話など出来ない、と言っていた割に彼女の心臓はぎゅっと切なくなる。触れられただけで胸が高鳴ってしまうなんて、彼女は思いもしなかった。

「答えろ」

「い、いえません」

「なまえ」

ザンザスは目の前で縮こまる可愛らしい彼女の名を再び呼んで答えるのを促す。
しかし、なまえは自身の名前を呼ばれても目を合わせようとしない。どうにか彼が諦めてくれないかと願ったがザンザスは勿論そんな男ではない。彼が諦めて優しく彼女の額に口づけをして立ち去るような優しい男ではないのだ。そんな男を求めていたのならばなまえはきっとショックを受けるだろう。

「あっ!」

ザンザスの手が顎から彼女の頬まで伸び、横に逸らしていた顔を無理矢理に前へと向けた。


「 Eyes on me 」

視線を合わせる事をなまえに強く促す言葉である。
お願いというよりも、ルーキーの軍人達に上の人間がかけるような言葉だ。自身に逆らう事を許さないと言わんばかりの態度を示され、なまえの思考は完全に止まってしまう。

考える事も出来ないが言われるがままに、視線をゆっくりと恐る恐るザンザスの方に向ける。彼はそれに満足したのか口元を僅かに緩ませた。やっとこちらに目を向けてくれた彼女をザンザスはまじまじと見つめるが、なまえの瞳の縁に溜まっていた細い涙がゆっくりと頬を滑り始めた。きっと舐めたら温かいのだろうとザンザスはふと考えてしまう。

「それでいい」

肯定の返事など求められていないのはわかっているのに、なまえは思わず小さく頷いてしまった。真っ直ぐに通った鼻筋、聡明さを物語る彼の額に赤い瞳を強く際立たせる黒髪。星の王子様と呼ぶには随分と頑強さが勝っているし、どちらかと言えば赤い瞳を持った百獣の王だろう。それでも、なまえにとっては恋しくてたまらない王子様だ。

そんな王子様が彼女の頬に優しく手を添えたまま口づけしようとしている。
普通口づけの時に近づけば互いに目を閉じるのに、2人とも閉じようともしない。
なまえに至ってはただただザンザスの瞳を見つめて、このまま流れ星の一つでも彼の瞳に零れるのではないかとうっとりしているぐらいだ。


「・・・恥ずかしい」

「慣れろ」

もしかしたらなまえの胸元回りに纏わりついているのは、ザンザスの瞳から零れた赤い星雲の小さな星々かもしれない。


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あとがき

英語表記に迷ったんですけど、4年くらい燻ぶっていたネタです。
ザンザスにはどうしてもLook at meよりもEyes on meって言って欲しくて・・・。
軍隊とかで上司が部下に言う言葉のような強さかな〜という印象です。
すごい命令口調って感じなんですけどザンザスはこれくらいの強さがあっても良いのかなと。あと、ザンザスはきっと好きな子が出来たら絶対に自分のものにする!という強い意志がある気がしています。

2020.1.20



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