「どんな形であれ愛を知ると人って傷ついてしまうものなよね」

「・・・・ルッスーリアにもそういう事はあったの?」

なまえの手元にあるのは彼がくれた真新しい薄手のセーターだ。広がったプレゼント用の紙を畳みながらルッスーリアはゆっくりと話し始めた。目に入れても痛くないほどに可愛いと思っているなまえがまだ知らない、彼の過去を。

「ここにくる前はねショーダンサーだったのよ。ハイヒールを履いて、お化粧をして、明るくって誰にでも愛されるようなキャラクターで舞台に上がってたわ。そこから見る世界はそれはそれは輝かしいものだった。好意的に私を見つめてくれる眼差ししかないの。誰もが私や仲間たちのショーを求めて、クラブにやってきてくれて、私は私らしく居られる唯一の場所だった」

「だった?」

少し下がってしまったサングラスを指で元の位置に戻し話を続ける。

「そう、舞台にいる私こそが私だと思ってたんだけど、そうじゃなかったのよ。ショーで働いて人気が絶頂になった頃、とっても素敵な人と出会って付き合い始めたの。私の理想の人で何もかもが素晴らしかった。素晴らしかったけれども、その人は私を求めていなかった。舞台の上にいるチャーミングで、セクシーで、どこか戯けてて、この世の荒みを知らない幸福な私を現実の私に求めていたの。
残念ながらそんな私じゃないから、私は苦しんだわ。結局その人は別れたんだけど、その後も恋に落ちた相手はみんな舞台の上の私に恋をしていくの。舞台の上にいるのは私の理想であって、現実の私ではないのにね。誰も現実の私の愛を受け取ってくれないんだ、って悲しくなったわ」

ルッスーリアは足を組み直し、昼にはまだ早いシャンパンを煽った。世界のどこかでは既に午後5時よ、という彼らしい選択ではあるが。

「その時知った愛を知らなければよかった、と思った?」

「いいえ、全く。愛されたことは確かに幸福だったわ。自分を思いやってくれる人がいるのってこんなに温かな気持ちになれるのかと思ったのよ。勿論、そんな温かな気持ちを知ったから私は恐ろしい程に傷ついて苦しんだわね」

ルッスーリアの脳内に蘇っているのはショーダンサー時代に見たものばかりだ。ファーやスパンコールがたっぷりついた衣装、これ以上絞れないという程に体にぴったりとつけたコルセット、美しく歩くのに苦労したハイヒール、数々の化粧品。どれも彼にとっては輝かしいものだ。

なまえはそんな彼を見つめながらふと思ったが何も言わず、ただ唇を噛み締める。まさか彼が、そんな経験から死体を愛するようになってしまっただなんて、と思ったのだ。なのに、ルッスーリアはなまえの考えを汲み取ったかのように答えを教えてくれた。

「まあ、そんな過去があって私は自分が麗しいと思ったものを集める様になったわね。永遠に彼らを閉じ込めて、永遠に私の愛を注ぎ続けれるのよ。私の愛を私が愛おしいと思うものに注げれるって素敵でしょ?でも、なまえちゃん達にはそんな事しないわよ!」

おほほ、と小指を立てて笑うルッスーリアにつられなまえも何故か笑ってしまう。こういう時に固まってしまわないあたり、彼女もこちらの世界の人間なのだ。

「愛って恐ろしいのに、なんて尊いのかしらね。一生癒えぬ傷を得てしまうこともあれば、一生癒えぬと思った筈の傷が癒えるんだもの。だから、二度と愛に触れないと思っても愛をどこかで欲してしまうのかもしれないわ」

「色んな味の愛があるもんね」

「あら、可愛いこと言うじゃない?」

きっとルッスーリアとなまえの舐めている愛のキャンディーは味が違うだろう。それでも舐めている本人にとっては、とっても甘くてとっても幸福な気持ちにさせてくれるものなのだ。例え、そのせいで舌が血だらけになっても青色に染まっても、黄色に染まっても。



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