なんだか、寂し気な気持ちだったのだ。

忘年会という名前のクリスマスの訪れを祝う様な会食を終えて帰路についた頃には日付がとっくに変わっていた。これじゃあなまえも寝てるな、と思った通り、愛するなまえの部屋には灯りがとっくに消えている。飲んだ酒のせいで体は暖かいが気持ちは何だか冷たい。
これが冬のせいだとしたら、こんな夜は一人では眠りたくない。

静かに、静かに、なまえの部屋に入る。青い静寂などどこにもなく、真っ暗な部屋の中で輝いているのはツリーのトップスターだけだ。
自分の足で自分を踏んでしまったが、大きな音を立てない様にディーノは痛みを堪えてベッドまであるいていった。

ああ、可愛い。

うずくまる様にして眠っているなまえの顔を見るべく、ベッド横に腰かけた最初の感想がそれである。

『ボス、なまえを起しちゃだめだぜ』

ロマーリオには車を降りる前にそう言われたが、起すつもりなんて毛頭ない。
正直言って今夜の会食は全く楽しいものではなかった。互いを牽制し合って腹の底を探り合う会食だったのだ。笑顔こそあれど、本当は何を考えているかなんてわからない。終わって車に乗り込んで、大きなため息を吐いてしまったのもそのせいだ。
酷く疲れたせいか、やけになまえに会いたくなった。なまえに床に就く前に少しだけ甘えさせてもらえたら十分、元気になれるのに。でも、彼にとっての天使である彼女はとっくにこうして眠っていた。

『なまえに会いてぇな』

車の中で言い放った自分の言葉を思い出す。
彼女がこの車にいたらどんなに幸せだったんだろう、と思いながらの帰り道は酷く寂しかった。抱き締めて、寄り添いながら屋敷に戻りたかった。疲れたね、と言って手を握ってほしかった。

なんだか、随分今日は寂しがりやかもしれない、とディーノは自嘲する。

トップスターの暖かな灯りの下にはサンタクロース、トナカイ、キャンディケイン、とディーノがなまえの為に買ってきたオーナメントが飾られていた。クリスマスが来れば今年ももう終わりだな、とまた、やけに寂しい気持ちになってしまった。

「んん・・・」

やばいかも、と思ったがなまえは熟睡しているらしい。
あまりにも可愛らしい寝顔にディーノはつい、頬に口づけをしたのだ。
枕の上に放り投げられた彼女に手に触れて、握ってみる。目は覚めない。じゃあ、とディーノはそのままなまえの手を握った。自分の手よりも小さくて柔らかくて暖かい。
握った手を自身の組んだ足の上に置き、彼女の掌を摩ってやる。ゆるゆると光るトップスターの下にいるサンタクロースはこの、キャバッローネのドンを見てどう思うだろうか。
優しい男だと思うだろうか、寂しがりやな男だろうか、それとも、何かプレゼントを、と思っているだろうか。

「まあ、いっか」

そう小さく呟いてディーノはこれまた音を立てない様にスーツを脱いでいった。シャワーは朝に浴びればいい。どうにもこうにも、なまえを見ていたら眠くなってきてしまった。手を握った時点で瞼はやけに重かったし、ここから一人部屋に戻って眠るのは、やっぱり寂しい。
丸まっているなまえの背中側に回って、そっと、彼女を抱き寄せる。ディーノはパンツ以外全て脱いでしまったので、やけになまえが暖かく感じられた。柔らかいのは手だけではなく、彼女の体も柔らかい。

「痛い・・・」

「え、ごめん」

起してしまった!と思ったが、どうやら寝言のようだ。ディーノの謝罪はトップスターの灯りに飲み込まれ、消えていった。どきりとしたがほっと息をついて、彼女の肩に顔を埋める。ああ、なんて幸せなのだろうか。ディーノは幸福でたまらない。それに、やっと張りつめていた緊張感が全身から抜けていったのだ。じわじわと迫っていた眠気と疲れがディーノを襲う。しかし彼は疲れなんかよりも、この幸せなまま眠りにつける事が嬉しかった。
大好きな大好きななまえを独り占めにして、眠れるのだから。

翌朝、パンツ以外身に着けていないディーノをなまえが見て驚くのは彼本人も予想していなかったのだが、これはまた別の話である。




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