なまえは困っていた。
もうすぐ夕食の準備に取り掛からなくてはならないのに、彼女の夫がそれを許さない。
先ほどからずっと押し問答を繰り返している。
この暖かな部屋を出て、外の蔵に置いてあるじゃがいもを取りに行きたいのだ。
しかし、外は大きな雪の精が空からしきりに降っているではないか。青々としていた木々は勿論枯れており、ひどく寂し気ではあるが雪の精によって白塗りを纏っているのでなんだか神秘的だ。

「いいだろう、久しぶりなんだ」

ザンザスはそう言ってなまえの腕を引いて、そのまま自身の首に回す。もう片方の手で華奢な腰に手を回せば彼女はもう逃げ場がないし、力では敵う筈がない。

「使用人に任せろ」

「いやよ、自分でしたいの」

「俺と過ごすよりもキッチンにいたいのか」

「ザンザス!」

驚くなまえにはお構いなしにザンザスは少し背中を丸めて彼女のうなじに口づけを落とした。

「風邪をひきにいくつもりか、なまえ」

離れたがるなまえの腰に添えた手に力を入れて、力強く引き寄せれば逃げ腰だった彼女の腰はぴったりと彼とくっついてしまう。
じっと強請るようなザンザスの眼差しになまえの決意は次第にぐらぐらと揺すぶられてしまう。

「でも必要なの」

「俺にはお前の方が必要だ」

既にぴったりとくっついているのにザンザスは更になまえの腰を引き寄せようと、手に力を込めていく。柔らかな体が鍛え上げられた屈強な体にくっついたせいで、なまえはますます決意した心が溶けていってしまった。

敵わない、きっと敵う筈がない。

「もう、そんな事いって!」

「何が悪い」

ちゅう、となまえの顔を片手で掴んで頬に口づけをする。
そのまま流れるように、そうするのが当然のように、ザンザスはなまえの美味しそうな唇にも口づけをした。一度ではない。何度も何度も、角度を変えて彼女の唇を楽しむ。
頑なななまえだったが、やっぱり、彼には敵わない。僅かに唇をあけて、彼女もザンザスの口づけに応える様に可愛らしい口づけをし始めた。

「・・・ミートパイを作ろうと思ってたの」

「また今度だな」

なまえのミートパイはザンザスの大好物だ。
作っている最中にキッチンにやってきては、パイに入れる前のミートソースをよく味見しに来るぐらいである。付け合わせのマッシュポテトも、クリームドスピナッチも、この時ばかりは野菜嫌いのザンザスは喜んで食べる。今夜、そのメニューなら嬉しいところだが、ザンザスにとっては今はそれどころではない。目の前の愛おしい妻に自分の中で燃える気持ちを伝える方が大事なのだ。

「・・・わがまま・・・」

はあ、とため息をついて困ったように彼の胸元に顔を埋めた。
観念した愛するなまえの髪の毛を梳くように頭を撫でては、その髪の毛に口づけを落とす。なんだか今日は随分と甘えたがりな夫だこと、となまえが思ったのは言うまでもない。
抱き締められたまま、窓の方にに顔を向ければ確かに、外はとても寒そうだ。雪の精だけではなく風の精もやってきて木々は揺れ始めている。ストールだけでは防寒になりそうにもない。

「手厳しい妻だな」

ザンザスは窓の方を向いていたなまえを抱え上げ、ベッドに落とした。

「シェフに言わなくちゃ、任せるって」

「言わなくてもわかる」

「だめよ、んっ、まって」

「待たねぇよ」

夫を待たすには難しいくらいの、熱っぽい口づけだ。あっという間にシーツの波に沈められてしまう。なまえのくびれにはしっかりとザンザスの腕が回されており抵抗のしようなどどこにもない。

ああ、今日は外が寒いからね。






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