「うーん、それってダメだと思うけどな」

「オレも山本と同じ意見かな・・・」

「10代目がそう仰るなら、自分もそう思います」

はあ、と思わず大きなため息をしてしまう。
新卒として入社した日伊貿易会社の同期である、
綱吉くん、山本くん、獄寺くん達は中学生からの付き合いだという。
獄寺君からすれば、山本くんは腐れ縁すぎて何も言えないらしいが。

「やっぱり音信不通にするって私の優先順位低かったのかな?!」

今日は入社して初めての金曜日。
社会人の基礎の基礎である研修を終え、繁華街に繰り出したのだ。
梅干しとカルピスを混ぜた初恋サワーというのが入ったグラスを両手で持って聞いてみる。
うーん、と気まずそうにする綱吉くんには付き合って長い彼女の京子ちゃんがいる。

「そうだろうな!」

ばさっと笑顔で山本くんに言われわかっていたものの心が傷ついた。

「やっぱそうだよねーー・・・」

私にはまさに理想な彼氏がいた。いや、元彼か。彼氏が一つ上で、先に就職をした。
そして研修が終わるや否や彼は配属で地方転勤となってしまった。
それからというものの、連休に帰ってくると言った筈の彼は春の連休以外で会えなかった。
その会えた春の連休以降は音信不通になり、私は消化しきれない思いを持ったまま社会人となった。

激務な会社である事は重々知っていたが、ここまで彼の心の余裕を奪ってしまったのだろうか。

「何偉そうに言ってんだよ!この野球バカ!」

「獄寺くんって、山本くんを野球バカって言うの好きだよね〜」

お酒が入ってた事もあり、ケラケラと笑ってしまう。
やれやれと言いたげな獄寺君は、まだ鰹節がふわふわと動いている卵焼きを口に入れた。

「本当に好きだったら時間を作るって言うのもあるけど、
オレにはそいつが自己中心すぎると思うぞ。
自分の事しか考えれない時ってのは確かにある。
それでも本当になまえを大切に思ってるなら、自分が大変な事ぐらい伝えられただろうし、
別れようとしても誠意をもって伝えるだろ。
なまえの事を蔑ろにしてるとしかオレは思えないな」

まじになっちまったと山本くんは笑ったけど、確かにそうかもしれない。

「オレも山本の言う通りだと思うよ。なまえちゃんは、
自分の大事な友達がそういう事されてたら、どう思う?」

「・・・私の親友を傷つけないでほしい」

「そうだよね」

山本君の話もよくわかったけれども、自分の親友に置き換えるという綱吉くんの話は
もっともっと腑に落ちて苦しくなってきた。
そうか、私は元彼に蔑ろにされてたのか。
ああ、ずっと想ってきた時間はなんだったんだろうなあ。

「10代目の仰る通りですよ。
おいなまえ、その男に涙を流す程価値があるのか?」

鋭い問いかけにもっと涙があふれてくる。
獄寺くんは腕をくみ、私の答えを待ってくれている。
けれども涙が止まらず何も言えなくなってしまう。

「使えよ」

獄寺くんが新品であろうハンカチを貸してくれる。
有難く手に取って、涙をぬぐらせてもらった。

「いいか、お前は優しい。お前は優しすぎる。
そんな蔑ろにしてきた男なんかにかける優しさが勿体無い。
とっとと忘れて、もっといい男探せ!10代目程のいい男はいないだろうけどな」


「・・・うん」

獄寺君がこんなにも優しいなんて。
それに内定式以来の再会でここまで私の為に元彼を怒ってくれるなんて嬉しい。
そう思うとまた涙が出てきてしまった。

「獄寺はいい事言うな。すいませーん鍛高譚の水割りで!」

「うっせーんだよ馬鹿!」


でも、その涙はあったかくてあっという間に笑顔に消えて行ってしまった。
鼻をかもうとすると綱吉くんがティッシュをくれた。
私の同期って皆優しすぎじゃない?

「なまえちゃんなら直ぐにいい人見つかるよ。」

「見つかるかな、でも、今度は綱吉くんみたいに大切に長く付き合ってくれる人を探すね」

「いやいやオレなんて・・」

「いいえ!!!10代目!ご謙遜なさらないでください!!!」

「ツナは本当に謙虚なのな」

本当、皆綱吉くんが好きなんだなあ。
目の前の3人、いや主に獄寺君が怒り山本くんがのらりくらしかわし、
綱吉くんがおどおどしている様子を見ていると不思議と心強い気持ちになった。
それに、私はきっともう、元彼と一緒にいた時よりも皆で居た時の方が楽しいと知ってしまった。
やっぱり、あの時は自分に我慢をさせていたんだ。
1人じゃない筈なのに、いくつもの夜を独りの様な気持ちになった事を、
すぐには忘れられないと思う。
多分ずっとずっと好きな人になるだろう。

この辛かった時間があったからこそ、今みんなに出会い、
この時間を愛おしいと思えるのだろう。

「みんな、来週の研修もがんばろうね!」


とっくに乾杯はしたけど、またしたくなってかんぱーい!とグラスを上げると
皆も乾杯と言ってくれた。安い居酒屋さんの照明がすごく暖かく見えて、凄く幸せな場所に
見えたのは間違いなく事実だ。






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