レヴィは信頼する部下の結婚式に列席していた。
護衛の任務で恋に落ちたという花嫁は幸せをいっぱいに噛み締め、夫となった自分の部下と踊っている。それにつられて幾人もの人間がダンススペースで踊り始め、会場はすっかりダンスパーティー状態だ。部下の手前あまり酒にも酔えず、かといってパートナーと参列したわけでもないレヴィはじっと椅子に座り眺めている。それだけで良かったのだ。それだけで良かったのに、職能グループのなまえが現れ、自分の人生が彼女によって踊り出してしまったのは完全に予想外であった。

「ねえ、レヴィ・ア・タンでしょ。入金確認してるなまえなんだけどわかる?」

親しげだけれども馴れ馴れしさを感じない話し方にも声にも聞き覚えがあった。
依頼主からの入金を確認し、その入金額を仕分けたり未入金の場合の催促状やその他の手段への処理を進める職能グループに籍を置いている女だ。
幾度か入金不足や書類不備がありレヴィは直接連絡をもらった事があった為、初めての様で初めてな気はしない。

「あ、ああ。いつも世話になっている」

「真面目だね、踊らないの?」

さもどうでも良さげな言葉である。
もとよりなまえは先日失恋をしているせいもあり、その痛みを酒で潤すかのようにパーティの始まりから相当飲んでいる。故に気分が良すぎてレヴィの堅苦しい挨拶など聞いてられないのだ。

「いいから踊ろうよ、絶対あの子喜ぶよ!」

テーブルの上に置いてあった右手を両手で思いっきり引っ張られる。
レヴィが自分は、と言ってもなまえは一切気にしない。はやく!と大きく声を張り上げる彼女に気後れし彼はよろよろと会場の真ん中までやってきてしまった。それを見た列席者であるレヴィの部下も、今日の主役の新郎新婦も大喜び会場は沸き立つ。
目の前で楽しそうに大きく口を開けて笑う、今までまとも話したこともないなまえにレヴィはたじたじだし踊れる訳がないと内心焦っていた。
あれよこれよと、周囲の歓声を浴びつつなまえはレヴィの手を取り、ホールドの姿勢を取るよう促す。勿論基本的なワルツのステップは分かっているがリズムに乗れるのとは話が別である。曲に合わせ踊り出すも、どうにもうまく噛み合わない。周囲の好奇の視線に入り混じり、不安な視線が投げられる。酔っ払っているなまえには緊張してるんだろうな、としか思えなかった。

「大丈夫だよ、私踊るの得意だから。ちょっとほぐしに練習しとく?」

なまえはレヴィの大きな手を握りカウントを取りながらステップを踏むんでリードを促す。曲に合わせずに真四角を描く様に、何度も何度も同じ動きを繰り返した。
こんな初歩の動きくらい出来る、とレヴィは言いたかったが目の前で楽しげに笑う彼女に完全に照れてしまっているせいでそれは敵わない。
しかし照れのせいなのか、彼本人が踊りに向いていないのか、円を描く様に踊るのはうまく出来ず仕舞いだった。

「踊るの苦手だね?」

自分の手によってその場でくるりと回り終えたなまえの言葉が鋭い矢となりレヴィの心臓を痛々しく貫く。彼にはまあ、別にいいけどと言っていた彼女の声など届いていないし、部下達もステップには不安だったが女性と踊ったぞ!という喜びも伝わってもいない。

「貴様が勝手にしたことだ!」

「えー、みんな楽しんでるよ」

レヴィのムッとした態度などなまえは効かなかった。けらけらと笑いながらお酒を取りにダンスしている人々の間を抜ける。

こんなにも明るく笑っていてもなまえの心は憂鬱だった。
本当は結婚式に来るの辛いぐらいだったが、新郎とはヴァリアーへの入隊時期が同じで職種は違えども共に苦楽を乗り越え、彼の恋愛が成就するように相談も乗ってきた。
恋愛成就ねえ、とふと一昨日まで恋していた男を彼女は思い出す。好きで好きでたまらなかった男には女がいたと知り、危うく2番目の女になるところだったのだ。1番好きな男と結婚出来ないとはこのことか、彼以上に好きな男はいない気がするとなまえは明るい音楽をバックに考えてしまう。そして、ほぼで出来上がっているなまえは憂鬱な気持ちを更に晴らすべく、バーからウォッカを貰い踊っては飲み、踊っては飲みを繰り返していった。憂鬱さを1ミリたりとも思い出しくないからだ。
結果、このウェディングパーティーでより多くの人間と写真を撮り、踊りのんだのは間違いなく彼女だ。


そして残念な事にそのツケは早く彼女に襲いかかった。

「やばい気持ち悪い」

「俺は知らんぞ!」

「お願い、お水ちょうだい」

飲み過ぎたなまえは踊ったよしみでしょ、とほぼ初対面のレヴィに厚かましく介抱をねだった。踊りたくもないダンスをやらされた上に文句もつけられた、と思っている彼にとってはまさに迷惑極まりない事態だ。

「本当に吐きそう」

「おい!ここでは吐くな!」

「無理」

嗚咽が下から聞こえる。せめて手洗いに連れて行こうと思っていたレヴィの優しさも虚しく、なまえは草むらに駆け込み戻し始めたではないか。持っていた携帯とミニバッグをレヴィの足元に投げ捨てて。なんてみっともない女なんだとレヴィは愕然とした。
下着は見えないと言っても、吐くほどに酔っ払い人様に迷惑をかけるとは。彼の中にある確固たる女性像とかけ離れたなまえは恐ろしく自由気ままで、清楚さもなく品性のかけらも感じられなかった。


後日、プライベートの携帯ではなく仕事用の携帯になまえから送られてきた写真は恐ろしいものであったがベルは楽しそうに笑っている。

「いやレヴィ画面から切れてるしぶれすぎだし、なまえに至ってはもう残像じゃん」

それを言われたレヴィがこんな女は絶対にごめんだと思っているのは言うまでもない。
そして、そんな風に噂されていたなまえもまさかレヴィに恋にしてしまうなんて思いもしなかった。
踊りに誘った自分の人生も彼の人生と一緒に白銀に輝く靴を履いて踊り出してしまうなんて。





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