彼の、ザンザスの生い立ちを聞いたのは婚姻を結ぶ前夜だったわ。
どんな子供だったの、と聞いたの。青い夜で、満月が良く見えた。街頭がなくたって誰も迷子にならないくらい。満月の周りは一際明るくて、じっと見ると薄い虹色の膜が出来きていたわね。私はソファーに寝っ転がって、クッションにもたれていたけど、ザンザスは斜め向かいの椅子に腰掛けて、ウィスキーを三杯くらい飲んでいた筈よ。部屋の明かりはつけてなかったわ。私が先に眠っていて、彼が月明かりの下で飲んでいたの。なんだか眠れなくて。

ウィスキーのグラスを少し傾けてから、淡々と、自分の知ってる遠い物語を語るようにザンザスは教えてくれた。どこか遠い地平線を見ているみたいだったわね。

彼の生まれ街の話、どんな風に過ごしていたか。・・・私にも眠れない夜はあったけど、彼の夜はどれ程心細くて辛かったかしら。どうしてそう思ったか?彼は自分の記憶にある限りの景色を教えてくれたの。それが、私には暗く見えたのよ。でも、ザンザスはただただ、地平線の谷間から浮かび上がる文字を読んでいる風だった。おとうさんと再会して、暫くして、血の繋がりがないと知った事も教えてくれたわ。その話を聞いた頃には夜はすっかり老け込んでいたのに、部屋はもっと深くて、どこか幼い青い沈黙に包まれた。でも、青色だけじゃなかった。なんとなく、その青の沈黙の下に、赤色が滲んだ気がしたわ。

彼の眉間の皺が少しだけ深くなって、声音が張り詰めてた。
・・・二度のクーデターを起こして、そして、今ここにいると教えてくれた。

その後?その後は聞いてない。なんか、喋りすぎたと思ったみたい。私の反応を待たずに椅子から立ち上がって、浴室に行っちゃったわ。



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