互いを思いやる温かな言葉が飛び交う季節、その言葉が色濃ければ色濃いほど、ザンザスの胸にモヤが比例するように色濃くなっていきました。幸福に赤く燃えていた筈のリボンが、一体どうして彼の胸を焦がすように絡みついてはモヤを産んでは、視界を曇らせるようになったのか。理由がわからないとはいいません。遠い昔、彼がまだ幼く与えられた物を信じていた頃、その時をぼんやりと思い出しては目を瞑ります。

『お義父様が、オペラにって』

ザンザスが仕事だ、と告げればなまえはわかったように頷いていました。どこかがっかりした風にも見えましたが、その表情は決してオペラに行けないからではないともわかっていました。かと言って、何か妻に声をかけるような男でもないので、ザンザスは知らないふりをしました。なまえも別に彼にわかった、という以上は何も言ってきませんでした。

甘えている、と言われたらそれまでかもしれません。でも、なまえは彼の問題は彼自身が解決するべきだ、と思っているので特段声をかけるつもりもないのです。

『お義父様に会わなくても、過ごしたくなったら教えて』

なまえなりの、ザンザスの生い立ちを知る彼女なりの気遣いでした。
とは言っても寂しくない、と言えば嘘になるでしょう。

「ボスのお仕事、日付が変わる前に終わるといいわね

「終わるかしら?」

なまえの左手薬指の指輪が目を覚ました様に輝きました。
その光につられてルッスーリアが視線を上げれば、まあ、なまえの嬉しそうな瞳と目が合います。この屋敷にはありませんが、暖炉のそばで夜に暖かく輝くクリスマスツリーのキャンドルのように。

「終わったら何がしたい?」

ガールズトークの始まりでしょうか。先程までそばに居たベルはとっくに感じ取っていたらしく、クランベリーを摘んでどこかへ行ってしまいました。

「・・・ご飯を食べる?」

「他には?」

サングラスの下にある二つの瞳、なまえは見たこともありませんが、何故か緩く目尻が下がっているのだと思えました。

「わからない、でも、喧嘩もなく穏やかにあたたかな食事が取れればいいの」



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