なまえはさぞかし驚いていました。
夫であるザンザス自身も、自分がこんな言葉を告げるとは夢にも思いませんでした。

『一本貰ってこい』

『・・・何を?』

『本部にいる年老いた庭師に言えばわかる。オレゴンから持ってきている筈だ。
屋敷のどこでも良い、好きな場所に飾れ』

主語のない言葉になまえは首を傾げます。要領の得ない、当たり前です、要領を得ないのも当然だとザンザスはすぐに思い直し、眉間の皺を少し浅くします。そして、モミの木だ、と告げました。

『飾って良いの?』

車の中で会話を思い出していたザンザスですが、その後のなまえの言葉が思い出せません。モミの木だ、と告げた瞬間に瞳に流れ星が一つ流れた様に輝いたのです。そして、嬉しそうに頬を緩ませ、嬉しい!と言って自分よりも背の高い夫に抱き着きました。先程まで見送ろうと近くにいたルッスーリアが気付けばいません。ザンザスはなまえに気付かれないように、小さくため息をついてから、彼女の背中を摩りました。

本当は今年も飾らなくても良かった、とザンザスは思っています。妻へそう伝えたのにも関わらず。でも、なんとなく、なまえが寂しそうな顔をしている気がしたのです。どうせ見るなら妻の朗らかな顔が良い、と考えたのでした。





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