よく晴れた青い夜空の下、ザンザスは泊まっていたホテルのバルコニーから外を眺めていました。
街灯の少ない街です。息を吐けば白く染まり、夜空に溶け込んでいきます。

肌寒さに身を預けるように目を瞑れば、脳裏に浮かんだのは他の誰でもないなまえでした。
冷たい風がザンザスの頬を撫でます。去年も今年と同じようにナターレの翌日の朝に屋敷に戻ったのを思い出しました。
玄関の扉を開けてみれば、まるで足音が聞こえて喜ぶ子犬のように、なまえはとても嬉しそうに彼を出迎えたのです。
つま先を伸ばして、彼の逞しい首に腕を回して頬を合わせました。その時に、寒かったでしょう、となまえは彼への愛おしさを声音に滲ませていました。彼の心の中であまり流れる事の無い暖かなものが流れます。

それに堪えきれないと言わんばかりに、ザンザスはまた一度息をついて目を開きました。
途端、青い夜空が溶かされたように幼い青色へと変わっていったのです。青い夜空の中で小さく輝いていた白銀の星々は
輪郭をはっきりと現し、静かに瞬きます。月を隠していた雲は風に追いやられたのか、はたまた、丸鏡を探していた女神が見つけたのか。虹色の薄い膜をまとったまま、姿を見せました。明るい、誰も迷子になることのない満月でした。

ザンザスはああ、と、なまえに自身の過去を打ち明けた日の夜を思い出しました。
あの時もこんな風によく晴れた夜だった、と。でも、あの時はもっと暖かった気がするのです。何故でしょうか。
たまたま今日が寒すぎるだけでしょうか。いえ、きっと違うでしょう。なまえが側にいたからでしょう。

彼は簡単にその事実を認めるような男では無いので、その思考を打ち切ります。
でも、彼は足早に部屋に戻り少しだけ散らかしていた衣類をキャリーケースへと詰め始めました。
その姿を見た女神が微笑みます。先ほどよりも満月が明るく白銀に輝いたのです。帰路へ急ぐ彼が道を見失わないように。





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