談話室の暖炉の横に運ぶ予定だったモミの木は生憎横幅が大きく、談話室には収まりそうにありませんでした。
そこで玄関の入ったところすぐに飾る事になりました。
ザンザスが任務に出て二日程、明日はいよいよナターレです。

玄関のモミの木は運ばれてきた時とは打って変わって、立派な星を頭に据えています。
そして、その木の手にあるのは、丁寧に磨かれていたであろうオーナメントたちです。
ボンゴレ本部で出会った年老いた庭師によれば、毎年しまう時には全て磨いているらしいのです。

『最近は若い者に任せてるので、いまいちですがね』

そう言っていましたが、なまえは丁寧に磨かれている物だろうと思いました。
オーナメントボールにははっきりと、彼女が映っているのですから。モミの木と同じ様に、いえ、少しだけ横に伸びてしまっていますが。
ザンザスが仕事から戻ってこれを見たらどんな反応をするのか、なまえは想像しました。顔を歪ませる事はないでしょう。でも、庭師が言っていたように笑みを浮かべる事もないでしょう。彼女の知らぬ、夫の幼少期の、庭師に言わせれば穏やかで幸福であった頃に思いを馳せます。初めて見た飾りつけされたモミの木、ツリーの足元に置かれたプレゼント。
その周りを走る蒸気機関車のおもちゃ。それを見たザンザスはとても幸福そうだったと、その庭師は言っていました。

『でも、穏やかな冬が訪れたんでしょうか』

控えめな笑顔で返事をするなまえに庭師はそうですよ、奥様、と励ました。
頭の中にいる庭師にまた返事をするように、なまえは頭をモミの木の前で横に降ります。
彼女はザンザスに自身の父親との確執を解消してほしいとも思っていません。無い方が良いには良いのですが、なまえはその手助けをザンザスは求めていないと考えているのです。彼の問題は彼のものである、と。彼がどんなに深い海の底、深い雪の底で眠っていても、なまえはただただ彼が戻るのを待つことしか出来ません。

だから、ザンザスの胸の中に巣食う大きなものが、冬のこの頃に少しでも治まるように、彼が冬の寒さで目を瞑ってしまわないように願っているのです。大きなモミの木下で、ほんの僅かでも暖まってほしいと。



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