舌っ足らずの恋足らず



眩暈がする気がした。

アイスが食べたい、とねだったのはねむるだったがまさかこんな風になるなんて彼女は想像もしなかっただろう。
先程まで冷たかった筈の口内は、もう冷たくない。先程まで彼女の舌の上にいた筈のストロベリーはとっくに溶けてなくなってしまった。

恋人になってまだ少し、ザンザスはねむるの望みを叶えるべく観光客では簡単に辿り着けないようなアイスキャンディー屋に連れてくれたのだ。
いくつもの階段を上って見晴らしの良い丘の間にある小さな店だった。それでもショーケースの中に色ごとに並べられたアイスキャンディーにはオーナーの愛情が籠っている事が伝わるものであった。

火照った体を冷ます様にねむるはぱくり、とアイスに噛みついたのはついさっきの話。
ショーケースの中が冷たすぎたのか、彼女の噛む力の問題なのかアイスは砕けなかった。ザンザスは普通に砕けていたので、きっとねむるの噛む力の問題なのだろうが。
仕方ない、と少し舐める事にした。

けれどもそれがまさか、彼の何かに火をつけたとは夢にも思わなかっただろう。

「ねむる」

名を呼ばれ、恐る恐るザンザスの瞳を除けば先程まで見えなかった星が見えた。
さっきに食べた筈のストロベリー味のアイスは彼の瞳だった?そんなまさか、ザンザスの瞳は熟したいちごと呼べる甘さをたずさえた瞳ではない。視線だけで相手の肌は勿論、その奥底まで溶かしてしまう恒星なのだ。

「あ、まって、ん」

彼女の制止も聞かずにザンザスはまた再びねむるの舌に噛みつく。
無理矢理こじ開けるように口づけをした時と違って既に舌は冷たくない。自分の舌よりも小さくて薄い舌を逃がしまい、とザンザスは自身の舌で追いかけた。

ねむるは気付いていなかったのだ。恋人から向けられていた視線に。
柔らかそうな舌先がアイスの先を舐めている様がザンザスにとってはやけに魅力的であったのだ。もし、彼女の舌を掴んだらどうなる?と彼は思わず想像した。勿論、舌を掴んだだけで彼は満足などしない。這わせて欲しい場所があるのだが、苦しそうにこちらの期待に応えようとするねむるを想像したのは健全な欲だろう。

獅子の心臓に角の尖ったグリッターが散りばめられたペールパープルの雲が纏わりついた。

ザンザスはねむるの舌の感触を楽しむ様に、舌を合わせてくるが彼女はついていくのでせいいっぱいだ。苦しそうな息遣いが聞こえ、ザンザスから唇を離そうともがくも出来ない。彼の大きな手がねむるの後頭部に回されているからだ。
彼の舌で窒息、だなんて。ない話ではあるがねむるは口づけをするときの息継ぎの仕方を学ぶ必要があった。

「はぁ、あっん」

せっかくアイスキャンディーで涼を得たと言うのに、ねむるはすっかり火照っている。
彼の口づけに翻弄されて、ついていくのも精一杯ではあったがアイスと同じように思考が溶けつつあることは否めない。

もし、このままザンザスがスカートの裾から手を入れてきたら?

「苦しそうだな」

ちゅ、と小さく唇を吸われる音がする。

「だって」

その先を言おうにもザンザスに唇を塞がれてしまう。今度は啄むような口づけだけだ。
後頭部から手が下りて、ねむるの腰に添うように手が置かれる。先程までの彼女の口腔内を蹂躙するような口づけとは打って変わって、優し気な口づけであった。
あんなに苦しかったのに、ザンザスから幾度も触れるだけの口づけをされ、これ以上はもうないの?と期待してしまう自分がいた事に彼女は驚いた。
溶けた思考に浸りつつあったねむるは何だか物足りないような気がしたのだ。

あのままザンザスに奥まで、もっと激しく口づけで遊ばれても良かったのかもしれない、と。

結局、あれ以上の口づけもなく、ねむるはそわそわとした気持ちを抱えたまま深夜の映画館にザンザスと向かった。












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