ローストハニー





とろり、と溶け出しそうな琥珀色の瞳を向けられている。優しく揺らめく暖炉の上で、じっくりとキャラメルを暖めているみたいだ。

「だめ?」

ディーノはまるでダンスを始めるかのように、ねむるの腰に左手を回しては彼女の右手を自身の右手で握る。指は交差するようにしっかりと繋がれていて、彼女は確かにホールドされてしまった。掌と掌が合わさり、ぴったりと肌と肌が触れ合う。本当はもっと奥深いところで合わさりたい、そう彼は願っている。その望みを、ねむるに今お願いしているところなのだ。

今日は不思議な日だった、あと一歩踏み切れない彼女の心を押すかのように、快晴であった筈の空が涙を零したのである。雨具などなかった二人は当然びしょ濡れ、猫であれば貯まったものじゃないだろう。人間でもそうだが。という訳で、ディーノの出張先の宿泊するホテルに慌ててやってきた。ねむるの街から程近い場所で、今日はただ近くまできた彼に会いにきただけだったが、幸か不幸か大雨のせいで帰り道が冠水し戻れない。

「私、まてるから・・・」

ねむるが口をひらけば、彼女の眼差しをもっと見ようとディーノは額を近づけるように頭を垂らしてくる。勿論彼の瞳も近づいてくるのだから、彼女はすっかり参ってしまった。言葉もしどろもどろ、ねむるの思考も溶け出しているかもしれない。
濡れた洋服はじっとりと気持ち悪い。早く熱いシャワーでも被って、止まぬ雨を家で凌ぎたかった。でも、先の理由の通り彼女の街に向かう山道は生憎通行止めである。

「ねむる」

頬が赤く染まってしまう。それくらいには色の篭った声でディーノに呼ばれてしまった。腰を引き寄せる手が熱い。くびれから溶けていきそうだ。ああ、でも多分、溶けてるかもしれない。目の前に迫るのは蜜のように甘いウィスキー色の瞳だ。ああ、ああ。

「好きだ」

崖に立たされている踵がぐらり、と落ちてしまった。ディーノは柔らかな白桃を齧るかのように、優しくねむるの唇に噛み付いた。とっぷり、彼女はそのこっくり染まった琥珀色のウィスキーの中に沈んでしまったのだ。
いつもはおっちょこちょいなのに、器用に濡れた服を剥がしていくのだ。息ができなかった肌が外に出てくる。その雨のせいで冷たくなった肌にディーノの口付けが落とされると、ねむるは胸の辺りがきゅう、と狭くなった気がした。

温度を上げるために出していたシャワーはすっかり準備ができていたようで、湯気が先程よりも濃くなっている。何せ、ディーノは彼女に一緒にシャワーを浴びようとせがんでいたのだからシャワーも随分待ちくたびれただろう。

雨に濡れた髪がねむるの肌をくすぐる。
上を纏うものはほとんど無い。肌着も脱がされて、ブラジャーのホックも器用に外されたところだ。心臓の音が大きくなる。異性にこうして体を委ねた事はない。シャワーに一緒になんて、何もないまま終わる事はないだろう。彼はずっと待ってくれたのだから。ねむるはそう自身に言い聞かせながら、恐ろしいともっと先を知りたい、という気持ちの間でさらにもがいた。

雨で濡れた肌は冷たい筈なのに、ディーノから移される熱で不思議と体は冷えていない。何度も何度も、角度を変えて口づけをされては肌を食まれる。一緒にずぶ濡れになったとは思えない程、彼の手は温かい。温かな手が、固まったバニラを溶かすように下へと下っていくのだ。

「あんまり、可愛くないから」

何せ、ねむるは今日彼に下着を見せる予定ではなかった!それでもこの蜂蜜に浸かったような男は優しくこう告げる。

「俺はシンプルで好きだけど」

「え?」

ディーノはウィンクをするや否や、するり、とねむるの肌にしがみついていたショーツを脱がしてしまった。一糸纏わぬ姿になった彼女は恥ずかしそうに体を縮めようとしたが、ディーノに横抱きにされ、そのまま湯気で真っ白になったガラス張りのシャワールームに入ることにまった。

「ディーノさん、シャワーが」

「もう変わんねーって」

そう言いながらあたたかなそこで、ディーノは転ぶこともなくジャケットからスラックスまで脱いでいく。ねむるは恥ずかしくて顔を逸らしていたが、全て脱ぎ終えて同じ姿になった彼の両手が頬に伸びて口付けをされてしまう。
白桃の内側をもっと奥の味を知りたい、と彼の舌がねむるの口腔内に伸びてくる。それに応えようと、彼女は懸命にディーノの口付けを受け入れた。いつもより少しだけ、ほんの少し荒いのは彼の熱情がだいぶ迫り上がってるからだろう。

「ねむる、もっと口開けて」

ちゅう、と互いの唇を啄む音がシャワーの水音に紛れて聞こえる。彼の望みを飲もうと、頑張っているせいだろうか、自然と爪先立ちにまってしまった。彼女の細い腕が彼に首に回されている事もあり、柔らかな肌がディーノの肌にぴったりと触れる。ずっと望んでいた事がようやく叶うのだ。ディーノは嬉しくて嬉しくて目眩がしそうだった。本当はこのまま、シャワールームの中で繋がってしまいたかった。
自分の腹の底で燃えている炎を彼女にもうつしたい、こんな炎を一人で抱えるのはもう限界だった。でも、初めてを立ったままではだめだ、とディーノは自身の欲望とねむるへの優しさの間で揺鬩ぎ合っていた。

「あっ」

「触るだけ」

それでも、少しくらいは、と彼は彼女の太ももの間に指を伸ばした。貝殻の口を確かめるように、指でそこをなぞっていく。ねむるの背中はぴん、と張り詰めたように張っている。ディーノはその緊張をほどきたくて彼女の首筋や耳元を唇で食んだ。その度に、小さな炎が花開くように肌の内側で燃えて思わず甘い声が漏れた。










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