*etflix and chill



ディーノはあれ?と思った。
スラングが通じなかったのか、通じたのか。
でもスクリーンの前に足を抱えて座って居るねむるを見る限り、単語通りに受け取ったのだろうと彼は思った。

やましい気持ちが無かったと言えば嘘になる。世の中には勿論、恋人の気持ちを尊重して一切やましい気持ちを抱かない男もいるかもしれない。けれども少なくとも自分は違う、とディーノはねむるの横顔を見つめながら考えた。
晴れて恋人同士になってから3カ月が経ち、夏もいよいよ終わりに向かおうとしている頃だ。口づけ以上の事に進みたいとディーノは思っていた。それ以上の経験がない、というねむると歩幅を合わせているつもりだが、理性と頭が必ずしも一致するとは限らない。

ジャムを作ろうと火にかけた苺が膨らみ過ぎる一歩手前のようなものだろう。なんなら膨らみ過ぎて、潰してみても煮詰めすぎているかもしれない。

「ねむる、俺が誘った時どうおもった?」

「え?」

「一緒に映画とかドラマを観るだけだと思ったのか?」

彼女を見つめているディーノの琥珀色の瞳にちくちくとした星が輝いている。それが金平糖だとしたら表面にかけられた銀箔は荒々しい。口の中で転がそうにも、ちくちくと柔らかな舌を傷つけては甘い味を濁すだろう。

「だって、メッセージでそうやって書いてたから・・・」

驚いた、とでも言いたげにディーノは瞳を見開いてみせる。
ねむるはちゃんと調べなかった自分を恨めしく思った。いつも穏やかな表情をしているディーノがどこか真面目な表情をしているからだ。けれども、初めてみる表情ではない。時々見る表情ではあった。いつも見る、長い冬を終わらせて、たおやかな春の訪れを知らせる太陽のような表情とは違う。
この表情をするときのディーノはいつだって、ねむるの事をじっと見つめるのだ。

まるで何か獲物を狙っている動物を思わせる眼差しを向けられている気がした。
目の前にいる獲物が少しでも動こうものなら、今にも噛みつかれてしまいそうな緊張感がねむるの肌を這っているのだ。まるで、頬の血色が目の下から、目の横にうつっただとか、瞬きを何回しただとか、そんな風に微細に見られていると思わせる何かがあった。

恐ろしいとは思わない。でも、この今にも噛みつかれてしまいそうな緊張感を割ってみたい、という悪戯な好奇心がねむるの中にはあった。

「俺以外の奴に言われて行っちゃダメだからな、絶対」

だから、そう言われてわざとらしく聞いてみたのだ。

「行ったら、何が起きるの?」

どういう意味だ、と聞く前にディーノの中で膨らみ過ぎた苺が一つ破裂した。
言葉を紡ぐべく開いた口を閉じて、下唇を噛み締める。破裂した苺から薄い赤い色の果汁が零れ、彼の心臓をより赤く染めていっては拍動を強くさせた。

「ねむる」

熱がこもった声だ。あ、と小さな声が喉元で消えたかと思いきや視界には天井がうつった。正しくは天井と、彼女を見下ろす恋人が。
ドラマの内容はもうわからない。どんどん進んでしまって、ちゃんと観ずにいる彼らが悪いのだが、それよりもねむるはディーノにあんな質問をした事を後悔した。

唇を啄むような口づけをされるのはいつもの通りだ。でも、下唇を噛まれる事は今まで一度もなかった。

「んっ、あ」

何度か啄まれては噛む、を繰り返される。途中ひときわ強く噛まれた事に驚いて唇を開けたが最後、ぬるり、とディーノの舌が滑り込んできた。
彼の口づけに翻弄されながらもアイスを食べるときに見えた舌先を思いだす。
アイスで冷たくなったせいだったのだろうか、彼の舌先がさくらんぼのように赤く染まっていたのだ。あの時はまだ深い口づけをしていなかったのに、何故か彼の舌先を吸ってみたいと思ってしまった。今はそれどころではないが。

「ねむる、もっと舌出して」

逃げようにも顎下を彼に捕まれている。
自身の下唇までに舌は出した時、その舌先にディーノの舌先が触れた。そのままアイスキャンディの腹から頭までを舐めるようにして口づけされてしまう。彼と繋がっている唇は溶けだしてしまいそうなのに、背筋がびりびりと痺れるような感覚がしたのは何故だろうか。その感覚をもう一度だけ試したくて、彼の首に腕を回す。

ディーノの中で一つ、また一つと苺が破裂していく。破裂しては口付けを通してねむるに移されていった。
彼が孕んでいた緊張感はこれだったのだ。肌に這っていた緊張感はあっという間に苺色に染められて濡れている。
本当はもっと違うところを濡らしたい、とディーノが思っているとはつゆ知らず。

もう一度だけ、もう一度だけ。そう言って彼の口づけが好きになっていった事をねむるは思い出しては一生懸命彼の口付けに応えた。













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