獅子の小さな宝物




ザンザス様に新しい女が出来た。
その女を書類を渡す間に存在を確認する事はなかったものの、ローテーブルの上に置かれたマカロンはまだ口をつけられていない。手洗いにいるのか、はたまたホテル近くのカフェへコーヒーを買いに行ったのだろうか。

「下がれ」

渡した書類に不足はなかったらしく、八つ当たりされる事もなかった。
今度はどれくらい続くだろか、とザンザス様が泊まられている部屋を後にしながらぼんやりと考える。幹部の方々も同じことを思っているようで、ルッスーリア様だけは違うようだったけれども、ただの暇つぶしの女になるのではないかと誰もが思っていた。
ホテルの部屋に女を呼ぶのは珍しくないし、所謂現地妻のような女がいるのも自分を含めた僅かな隊員は知っているのだ。

ザンザス様にとっての一時の春を永遠の春と信じる女を哀れに思いながら、その関係を見守るのがいつもの事であった。

でも、今回はいつもと違ったのだ。

任務を終え屋敷に戻り暫くした頃、秋の心地良い風が吹き始めた時である。
ザンザス様を探せ、とスクーアロ様に言われ庭まで出た。庭師によって切り揃えられた芝生は茶色く寂し気に乾き始めていた。陽の光に当たると、どことなく柔らかな黄金にも見えた。
芝生に沈みゆく自身のブーツから視線を上げてみれば、木々の抜けたところにザンザス様がいらした。慌ただしい音を立てないように、静かに足を進める。いや、一人ではない。

ガーデンチェアの上に腰かけているのはザンザス様だが、膝の上にいるのは知らない女だ。

この間ホテルに呼んでいた女だろうか?自分にはわからない。
女はザンザス様に横抱きにされるようにして、彼の膝の上に座っている。何か女が話しているのか、ザンザス様はその女の顔をじっと見つめているのだ。

どう思う?と問いかけたのか、ザンザス様は「さあな」と答える。女の顔でも見えれば唇から会話の内容が読めたのに。陽が陰り始め、女の髪の艶が天使の輪のように輝く。
よく喋る女らしいが、ザンザス様はじっと女の話を聞いたままだ。・・・どことなく、瞳が優しそうに見えるのは気のせいなのか、陽の光のせいなのか。

女を慈しむような、というのは大げさすぎるだろう。ザンザス様にそのような感情があるとは自分には思えない。でも、いつもより優しげなのは間違いない筈だ。ああ、だからルッスーリア様は今回の女は違う、と言っていたのだと納得した。
そもそもザンザス様が女を膝の上に乗せる事自体が珍しいのだし。

西の方へ緩やかになだれゆく陽の光で、ザンザス様の赤い恒星は柔らかに輝いている。
女の髪は陽の光で輝いているが、ザンザス様の瞳はきっと、膝の上に座る女を見つめるが故に柔らかなのだろう。

「おい」

ザンザス様の低い声が飛び、自分の体は思わず真っすぐになった。膝の上に居た女も驚き肩を跳ねさせていた。気付かれないと思い見つめていた自分が愚かであった。勿論、女に向けていたような柔らかさなどない。

「申し訳ありません、邪魔をしてはいけないかと思い」

「何の用だ」

膝の上に居た女が気を遣って、ザンザス様の膝の上から降りようとしたが出来なかった。
ザンザス様の腕が彼女の腰に回され強く引き寄せられてしまったからだ。

「スクアーロ様がお探しです」

自分の言葉に苛立ったのだろう、舌打ちが聞こえる。

「お前は先に戻れ」

「承知いたしました」

踵を返し、屋敷までの道へ急いだ。多分きっと、ザンザス様が女の体を引き寄せたのはわざとだろう。なんて考えてしまうのはおかしいだろうか。野生の獣が自身の番であると知らすような態度に自分には見えたのだ。

「女・・・?ねむるかぁ?」

スクアーロ様は怪訝な顔をしたが、膝の上に乗っていたと告げるとルッスーリア様がカプチーノを飲み干してこう言った。

「乗っていたんじゃなくて、乗せられたんでしょ。ねむるちゃんだわ」











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