激しく揉めてきたのはねむるとだけではない。幾人の人間とも揉めてはきた。ねむるとの関係だけが酷くこじれては壊れていった訳ではない。それでも一際彼女だけがザンザスの心の中にひっかかるのだ。


『私にはない影を探している』

ない袖を振れ、とねむるに告げ続けたようなものであった。体の中で燃え続ける炎は彼女に対して向けるものではなかったが、体の中で燃え続ける炎を彼女にぶつけては彼女を試していたのだ。そのせいでねむるを失っても、ザンザスはやっぱり、としか思えなかった。諦念の感情が彼の思考を覆い尽くしていたせいだ。燃え上がらんばかりの憤怒の炎は彼を夜明け前の暗い過去から前へと押し上げはしたが、酷く人を傷つけもした。あんな女、と思う事もあったし、ねむるがいなくなっても別に何も思わなかった。ぼんやりと後味の悪い映画を観た後のような気持ちになったのは嘘ではないが。

その気持ちの悪さが何か、に気づいたのは今年に入ってからである。もういなくなった女だ、とその気持ち悪さの正体から目を逸らそうとするもどうにも出来なかった。気持ちは月日が重なるごとに大きくなり、ザンザスの中でねむるの存在はもっともっと大きくなった。

ねむるが恋しい、としっかりとした言葉で思えるようになったのである。
遅すぎた事だ、と自身をどこか嘲笑うような気持ちで筆を取っていたのも嘘ではない。

「スクアーロ、お前は列車でもどれ」

冬の透き通るような日差しが眩しい朝である。雪夜の後の雨のような銀髪の男と星一つない夜空の黒髪を持つ男二人だが、とても昨晩に血生臭い現場から戻ってきた男達とは誰も思わないものだ。
ザンザスの言葉にはあ?とスクアーロは返すが上司の命令である、渋々とキーを置いては列車を取るべくスマートフォンを取り出した。



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