返事が来なくとも、彼女が手紙を読んでいるとザンザスはわかっていた。証拠はなんだ、と言われても答えられないが彼には自信があったのだ。
『ねむる 』
そう書き出して十数分経ったがザンザスの手は止まったままで、眉間に刻まれている皺はいつもより深い。何かを書こうと万年筆を握りしめなおしては再び手を止めるのを繰り返している。こんなに慎重になったのはいつぶりだろうか、文をしたためる彼すら珍しいのに一人の女に悩むのも珍しい。それに、かつては自ら傷つけた女相手である。
文字が頭に浮かぶも、ねむるが忽然といなくなった部屋が浮かび上がり文字は深緑色の壁に消えていくのを繰り返し、ザンザスは苛立たしげに溜息をついた。
いよいよ諦めて筆を置いて、キッチンへ飲み物を取りに行こうとした時だ。
ルッスーリアだかフランだかが流したのであろう、クリスマスソングが聴こえてきた。それもただクリスマスの幸福さを詰め込んだ歌ではない、奇しくもクリスマスに欲しいのは君だ、と歌われたラブソングである。妙に歌詞が鼻につくがザンザスは苛立ちを抑えてキッチンへと消えていった。
「ボス怒ってそうですけど」
「あらやだ、ヤドリギの下にいてほしい人がいるのかしら?」
ルッスーリアはフランにウィンクを投げてみるも彼のサングラスがあっては何も見えない。
そして、
『ねむる
ヤドリギの下にはもういないのか』
そんな手紙が彼女の元へ届いたのは歌のせいなのか、なんなのか。