日が進むにつれ、ねむるの住う街では雪が深まってきた。どうりで車が暖まるのも遅い筈だ、と手を擦り合わせる。

逃げ出したあの日、彼女と共に脱出劇を繰り広げた愛車は駅に置いてきてしまった。小さな車でも彼女が働き始めてから乗り続けた車で思い入れのある物だった。けれども、車でここまで戻ってこれる元気も気力もなかったから、あの土地から逃げ出すのに力になってくれた愛車に別れを告げたのだ。

車でここまで来るよりも駅で姿をくらました方が彼らに追いかけられないで済むかもしれない、と思った。だからまさか、ザンザスから時を経て手紙を寄越されるとは夢にも思わず、ねむるはいまだに動揺したままである。

これは勿論彼女の思慮の浅さというべきか、ザンザスやヴァリアーそのものの能力を侮っていたのだ。逃げる人間の取る行動など大体予測がつくし、彼らにかかれば一般人が逃げ出した所で追いかけるのは朝飯前である。
それでも彼が何もしなかったのは、彼の中にる何かがそうさせたのかもしれない。

諦念の気持ちか、ねむるを離してやるべきだ、というせめてもの優しさだったのか。
それは彼本人しかわからないこである。

小さいながらも歴史ある建造物しても名を馳せる駅の前、ぽつりと置いて行かれた恋人の愛車は寂しげでも無くどこか誇りに満ち溢れているように見えた理由をザンザスはわかっていた。ずっと抑え込んでいた彼女の怒りが、ザンザス自身に対する悲しみが、その結果がこれだ、と言われたような気がしたのだ。

彼女はもう戻ってこない。


『ねむる』

いつもと同じ始まりの手紙だ。
でも、彼女を取り戻したいのだろうか。電話番号が記されていた。


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