ふとした事から、徐々に崩れていったのだと思う、とねむるは友人に語った。付き合い始めもそのあと暫くもたしかに幸せではあったが、関係が深まれば深まっていく程にザンザスからねむるにかけられる不思議な疑念も同時に深まっていったのだ。
彼の過去が為せる技なのか、ねむるそもそもに疑わしきがあったのか。答えはどちらかと言えば前者であろう。始めのうちはただのやきもちだ、と軽く捉えていたがそうではなかった。隠しきれない疑念が、ザンザスは隠そうとしていなかった、ねむるに襲いかかり彼女の挙動を重くさせていったのである。
彼の疑念が、ねむるの中にはありもしない疑念が肌を焼こうと炎となって纏わりついていった。そして、それから逃げようとねむるは深い海の底へと逃げていくのだが、悲しくも彼女は自分の意思では這い上がれない程に弱まってしまった。その底から這い上がれない、陽の目はない、ザンザスとの関係は悪化するばかりで、過去の思い出を味わう様に何度思い出しては自身の気力を保つことにした。
「あんたは元彼の支配下にあったってことでしょ。ヘルシーな関係じゃないわね」
「・・・ほんとだね」
友人の着ている体のラインをはっきりと示す様なキャロットオレンジのニットがねむるに何故か懐かしさを感じさせる。その正体がいまいち思い出せない。
「まあ、自分の中にいる優しい彼を信じたかったんじゃない?またあの優しい彼に戻ってくれるかもって」
ねむるは何も言わずに首を僅かに横に傾げ、唇を噛み締めるばかりだ。
『ねむる
灌水器に水が無ければオルタ湖の水も消えていくばかりだ』