幾度も同じ映画を観たような感じだった。屋敷に戻ったらねむるはいなくて、与えた筈の部屋が酷く荒れている光景を、何度も何度も脳内で繰り返して、その想像と違いがないか答え合わせてをしているような気になったのを彼はよく覚えている。

今だって、確かに執務室の扉を見ている筈なのに、見えているのはねむるが居なくなった日の部屋だ。

シトロングリーンの壁に沿うように配置された机の引き出しは勿論、クローゼットの扉も開け放したままだ。酷く慌てていただろう、床にいくつか物が落とされたままだった。おそらく、ルッスーリアがプレゼントしたであろう物も。そして、ザンザスが彼女に贈ったアクセサリーも服も、全て置きざりだった。
あまりにも突然に持ち主を失った物立ちはこれ以上捨てられないように、と息を潜めながらもザンザスの様子を伺っているようにも思えた。消えた恋人を探す訳でもなく、悲しむ訳でもなければ怒りを露わにする訳でもない彼を。

『もう終わりにしたい』

そうは言っても何もしない筈だ、とたかを括っていた自分がいた。何度も脳内でねむるが居なくなる日を想像していたのにも関わらず。

もう二度と戻って来ないだろう。二度と彼女と会う事もないだろう。最初からわかっていたような気がしていたのに、妙にやるせない気持ちになるのは何故だろうか。

『ねむる
  お前は』

万年筆の首が緩んでいたようだ。黒いインクがじわじわと文字を侵食していき、人に出せないものになってしまった。





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