靄がかかっていた朝とは違い、よく晴れた夜空だったのをねむるは思い出す。深い青に輝いては夜空が纏うには十分な程に眩い星がいくつも溢れていて、深い森から人の多い街に出て自由を得た気持ちになった。
監禁などされていた訳ではないのに、ザンザスに囚われてしまったような気になっていたのだ。その場に留まると決めたのも彼女の意思であったにも関わらず、疲弊しきった彼女は手綱を手放す事が出来なければ自分でまともに考えれなかった。自己を保つ為にも、彼は変わってくれるだろうという、そう信じる自分を信じる為にもねむるはあの城に残っては崩れていったのだ。

駅の前に車を乗り捨て、片道切符を買う時にうまくカードが切れなかったのは手が震えていたせいだった。久しぶりに使う自身のカードの暗証番号はいまいち思い出せなかったが、指は覚えていた。

『ねむる
    お前がどこかへ行ってから大分時間が経ったように感じる』

じわり、とねむるの心が滲む。彼にもこうして時を感じる気持ちがあったのか、と彼女は驚かずにはいられない。恋人であった当時の彼はあまり季節が変わりゆく事に興味があるようには見えなかったし、そんな余裕もなさそうだった。だから、こうして彼が何か時の流れに言及するだなんて信じられないのだ。

大分時間が経ったように感じだなんて。
あんなに疲弊させたのは紛れでもないザンザスであって、彼のあの行動がなければ二人はまだ仲睦まじくいれたかもしれないのに、時間が経っただなんて。

あれほど傷つけておいて、とねむるの視界は滲んでいく。その涙が引き金になったのだろう、久しぶりにザンザスとの衝突と列車に飛び乗った夜を思い出してしまい涙が止まることはなかった。大粒の涙がぼたぼたと玄関のマットに落ちていく。クリスマスを模した明るいマットには似つかわしい女だ。


列車に飛び乗ったあの日、空腹を落ち着かせようと食べたチップスがやけに塩辛かったのは製品上の問題ではなかっただろう。



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