「香水でも変えたか」

あっ、ときらの驚いたような、驚いたにしては随分とつやっとした声が溢れた。
少し横を通り過ぎただけだったろうに、ザンザスはきらがいつもと違う香りを纏っている事に気がついたのだ。レースカーテンを開けようとした彼女を後ろから抱きしめ、大きな手はきらを逃しまいと下腹部に置かれている。腹に手をおかれただけならどうにか逃げれるが、どうにもザンザスが彼女の肩口に顔を埋めているせいでそれが出来ない。

「かえ、ました・・・」

「そうか」

自身の肌につけた香水の香りを嗅ごうとしているとはあまり思えなかった。顔を埋めてじっとしているだけのようにも思えたが、肌を食むように口づけをし始めたではないか。
手で触れられるのとは違う、人には中々触られない場所を触れられているのだ。それも唇で、である。唇の触れた場所が赤く染まっていくような気がした。肩から首、耳の方へとゆっくりと、ザンザスの唇がきらの肌を遊んでいる。遊んでいる、というよりも何か大きな動物が他の雄に自身の番を奪われないようにしているようにも見えた。

「ザンザス、さん」

白昼に突然始まった行為にきらは身動ぎをするも、彼がそれを聞くはずもなく。
下腹部にあった手は彼女を逃しまいと強く力を込められている。顔の下から広がっていく熱で胸がつっかえてしまったのだろうか、湯船に浸かって上せた訳でもないのに一人で立つには難しいらしい。皺ひとつなかったレースカーテンが歪んでいる。きらが今にも体から抜けてしまいそうな力を必死に堪えているのだ。

「だめ、みられちゃう、から」

「スクアーロが見えるな」

「えっ」

そう言った頃にはきらのワンピースのファスナーが下されていた。スクアーロの存在を確かめようにも、それは敵わない。振り返ったきらは頬を赤らめて瞳は今にも溶け出しそうな程に潤んでいる。十分に彼の腹の底で燃えていた炎が膨れ上がるには不足のない表情であった。

きらの腰を強く引いて、レースカーテンの後ろで開けられるのを待っている窓に押し付ける。こんなにも大きな炎を昼間からぶつけられるなんて、ときらは彼を鎮め方も知らない。このままここで食べられてしまうかもしれない、いいや、かもしれないではなくて彼はその気だ。

夏の旅行で十分愛を交わしたと思っていたきらだが、彼は違う。まだまだ途中だ、と彼女に告げれたらどんなに良かったのか。

「だめ、ザン、ザスさんだめ!」

「あぁ?」

この唇を剥がすのはきら自身だって名残惜しい。名残惜しいくらいに彼の口づけは彼女の頭の中を溶かしてしまう。ココアの上に乗せたマシュマロなんて比べ物にならないくらいだ。そのマシュマロの上で漂えたらどんなに気持ち良いのだろう、もっと彼に溺れさせられるくらいに求められたい、どろりとして甘くて、白いもので溶け合ってしまいたい。

でも。

「スクアーロ、窓の外にいないじゃない」

「嘘はついてねぇ」

廊下からザンザスを呼ぶ声が何度も聞こえる。彼はこれから仕事が控えており、腹心の部下が呼びに来たのだ。
マシュマロが一粒溶けたか溶けてないぐらいだろうか。ココアに白いフリルを飾るにはまだ足りない。ザンザスの邪魔をされたという苛立ちで白いフリルはマシュマロ共々焦げて、香ばしい香りだけが残ったがきらは自身の下腹部はなんだか甘くもったりとしている気がした。

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