珍しい、という訳でもなければ、よくある、という事でもない。
きらはザンザスに言われ脱衣所でいそいそとワンピースに着替えていた。

というのも、出張のお土産にとどこかのワンピースを買ってきてくれたのだ。きっとどこかとびっきりのレストランに行かない限り着れないようなデザインである。
肌に吸い付くようなニット素材、女性の曲線は美しい、と言わんばかりに特に腰にかけてはしぼって見えるように作られているようだ。ザンザスにサイズを詳細に教えた訳ではないのに、時々買ってきてくれる洋服は大体サイズが合ってしまうのが不思議だった。

『どうしてわかるの?』

『さぁな』

その理由について聞いてみるも、彼女の納得する答えは何もなく、ただただいつもの調子で誤魔化されてしまっただけだ。職業柄で人の体については特徴を掴むのが得意だ、とザンザスが言う筈もなく。そもそも彼は自身の事をあまり人にはあけすけと話さないのできらが知るには時間がかかりそうである。

「もう少ししたら着れるね」

脱衣所から出てきたきらの方にザンザスは視線を向けた。変に大きすぎる事もなければきつそうだという事もなさそうだ。服の色のせいで顔色が悪く見えもしない、寧ろいつもより明るく見えるくらいである。彼女に似合う色をザンザスはよくわかっているらしい。

「変?似合わない?」

わざわざ着替えてこい、と言ったくせに反応をしない婚約者にきらは不安を覚え始める。何も言わずにじっと椅子に座ったままなのだ。彼の頭の中の自分と乖離があったのだろうか、彼の頭の中に自分が居てお土産を買ってもらえるのは嬉しいけど、ときらの頭の中に毬栗のような棘が散らかり始めた。赤い瞳の奥底で何を考えているかは読み取れない。彼女にわかるのは、何か自分の中にある異物を探されているような気がする、という感覚だけである。

「ルッスーリアに直してもらえ」

「え?」

「そのまま行ってこい」

「・・・はい」

暫くの沈黙を経て、やっと口を開いたかと思いきや服を直してもらえとは。きらは訳もわからず、彼にどうして、と聞くのは何だか憚られたのだ。もしかして自分はものすごく醜く見えたのかもしれない、どうしよう、と不安な気持ちを抱えたままルッスーリアの部屋に向かった。

「あら!素敵なワンピース!」

「ザンザスさんが、ルッスーリアに直してもらえって」

「まぁ〜?どういうことかしら」

サングラスの奥にでも見えたのだろう。どこか不安げなきらの様子を。小さな子供とお姫様ごっこをするようにルッスーリアは、彼女の、自分よりも細く戦いを知らない手を取ってゆっくりと回らせてみた。

「寡黙な男って大好きだけど、きらちゃんを困らせるのは駄目ね」

ルッスーリアはすぐにわかった。側にあったドレッサーの引き出しからメジャーを取り出して、きらの姿勢を正すようにそれをくびれ辺りに巻き付ける。ぎゅっと引っ張られた彼女はさながら魔女に引き寄せられ、これから恐ろしい契約を交わすかのように目を大きく見開いた。

「きらちゃんのくびれがはっきり見えなくて嫌だったのよ、オホホ」

「えっ!」

「ちょっと腰回りの布が余ってるのね、このお洋服。きっとここの一番小さいサイズではあったんでしょうけど。でも、よく自分のお顔を見て頂戴」

そう言われ、きらは全身鏡の前に立たされる。ルッスーリアがワンピースの余った布を後ろへと引っ張ってみせる。するとどうだろうか、シルエットがよりはっきりとし、腰の曲線がより美しく見えた。

「色も綺麗よ、お化粧してなくてもきらちゃんの顔色を綺麗に見せてくれてるもの。
ボスったらほんとにいい男ね。私の知り合いの仕立て屋に送るから、着替えてらっしゃい」

後日、その仕立て屋から返されたワンピースは確かにきらの腰回りをはっきりと、より美しく見せた。世界で一着しかない、彼女を美しく見せるワンピースとなったのだ。
勿論ザンザスがいつも以上にどこか上機嫌で、彼女を愛でる様な口づけを何度もしてきたのは言うまでもない話である。

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