スクアーロは牙の取れた獅子のようだ、と部屋に入った後に思った。
大声を出すのはいつものことで、その後にザンザスがきらの膝の上で眠っていたのは驚いたし、思わずにやついてしまった。そのせいで雑誌やグラスを投げられた、と言えば嘘になるかもしれないが、否定出来る程のものではない。

警戒心の強いザンザスが誰かの膝の上で寝るとは、と驚きが隠せない。レヴィの運転する車の助手席でスクアーロは雨のせいで霞んでよく見えない景色を眺める。
過去に、ザンザスが懇意していた、というよりも親密になっていた女は何人かいた。ごく少数だったからスクアーロもよく覚えているのだ。昔の女と比べるのは無粋な事だが、比べずにはいられない。じゃあ、今までのその女達の膝の上でザンザスは眠っただろうか?
ないこともないだろう、とスクアーロは思ったが何故か心は無いという方に傾いていた。

ザンザスの嗅覚は妙に鋭いのだ。
超直感などない、と彼の血そのものを否定するように声高に叫んだ者が過去にいたが、本当にその血がないと起こり得ないのか?と思う程にザンザスは鋭いのだ。例えば、百マイル先から匂いもしないものを彼は感じ取ってしまうくらいに。そのせいで関係が破綻したこともあるかもしれないが、彼自身何かを守ろうとしていたのではないか、とスクアーロはぼんやりと思った。勿論、後ろでうたたねをしている彼に伝えれば殴られるのはわかっているから、言わないが。

『ザンザスさん』

ぼんやりとした天気だ。まだ午後も回ったばかりだというのに、車の中はやけに薄暗かった。森深い屋敷から抜けるとはいえ、ここまで薄暗く指先が冷たくなる気がしたのは久々で、ザンザスは無意識に拳を握りしめた。

『ザンザスさん』

聞き慣れた心地良い声だ。辺りは真っ暗で、普通の人間なら自分の居場所を探すのもままならないだろう。それでも、ザンザスは声のする方を頼りに体の向きを変えては歩を進めた。

『ザンザスさん、はやく』

鬼ごっこをしているつもりなのだろうか。はやく、と呼ばれても彼は走らない。走らずともその声の主の手を掴む自信があったからだ。それに、足元を見れば何か輝く小さなものが落ちている。星のかけらだろうか、上を見上げても漆黒の闇が広がるだけで星などどこにもない。それでも足元に落ちている星は、まるでザンザスに声の主が自分を見つける様に、と告げている様な気がした。この星一つでは、この場所を照らせないだろう、それでも星はザンザスの足を包み込むように小さく輝いては声の主へと導こうとしている。

まるで、彼が道を反れないように見守っているのだ。

言い得ぬ気持ちがザンザスの中で湧き上がった。そして、きらにこの星を見せてやりたい、と思った。何かを共有したいという気持ちは殆どないのだが、この星を掴んで彼女に見せてやれば喜ぶ気がしたのである。身をかがめて、星を一つ掬った。彼の大きな掌で輝く星はあまりも小さくて、星の赤子のようだった。ルッスーリアに頼んで飾りにでもしてもらおう、と珍しくザンザスは思った。そしたら、きらは、

「ザンザス様、間もなく到着いたします」

ゆっくりとザンザスは鈍く瞼を上げる。冬眠の準備かぁ?とスクアーロは野次ったが椅子は蹴られない。随分と心地良く眠りこけた気がした。ずっときらに呼ばれていた気がした。あのまま星を持っていけばきらがいただろうに、と考えるまでも無く声の主の正体に気付いたが、夢の余韻に浸る時間はないようだ。


穏やかな星のぬくもりに包まれるのは今暫しお預けである。



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