ネオンハートはしまわなきゃ!



溺れそうなバニラだ。透明な器、細くも麗しい首が支えているのは空に向かって足を広げる皿部分。その上に乗ったバニラは綺麗な丸の形をしている。そのバニラにアフォガードを掛けて溶かしてみたい、今すぐにでも溶かして、混ざり合ってしまいたいとディーノは思った。


そのバニラが誰を意味しているか、言わずもがななまえである。

「なまえ」

料理をしていた彼女のくびれに腕を回してうなじに顔を埋めた。驚いたなまえの声が上がるがディーノはお構いなしにうなじから首筋へと口づけを落としながら唇を上へと運んでいく。

「わ、ディーノ!」

「美味しそうな匂いだな」

顔を少し後ろに向ければ秋一番の麦よりも輝いて、蜂蜜よりも甘い色をした金髪が目に入った。果たして彼の美味しそうという言葉がどれを指しているかはなまえにはわかりかねる。それでももしかして、と思わずにはいられないのはディーノの手の動きやうっとりするような口づけのせいかもしれない。

キッチンでするにはセクシーすぎる口づけだろう。


「っ、まって、ご飯作ってるから」

「んー?」

くびれに回されていたのは腕だった筈なのにくびれを手で強く引かれてしまっている。
なまえのくびれの形を手に覚えさせるように、何度も触れているのに思い出すように、時折力を加えてきは彼の方に意識を向かせるように必死だ。

今にも溶けだしてしまいそうな吐息がなまえから漏れる。ディーノはきっと彼女が彼の方に振り向くまで首筋を辿る口づけをやめない。くびれを摩ったり、わざとらしく自身の腰を彼女の腰にぴったりとくっつけたり、バニラアイスを溶かそうと必死である。

「あっ、んっ、だめ」

「いいだろ」

「ごはん作ってるもん」

「俺は後でもいい」

「だめ、せっかく作ったのに」

「なまえ」

多分、バニラアイスの器に触れている部分がディーノの口づけのせいで静かに溶けだしたのだろう。なまえは頬を僅かに染めて、困ったように眉尻を下げてディーノの方に振り向いた。大切なものを包むように彼はなまえの頬に手を添える。せめてもの抵抗だろうか、彼女の手がディーノとの胸の間に置かれているが果たして。

啄むような口づけをディーノは何度も繰り返す。なまえの思考も次第に溶け始めて、自身の中に熱が籠り始める頃だ。その熱のせいでバニラアイスもどんどん溶けていくだろう。ちらり、と舌先をディーノの唇に差し込みたい気持ちに駆られていった。ああ、どうしてこの人はこうも女の子をその気にさせるのが上手なのだろうか、となまえは困った。

「やっぱりだめ!」

「ええ!」

「ごはん終わってから!」

「嘘だろ〜〜」

「だめ!」

なまえ〜、と呼ぶ声を部下が聞いたら何というか。ディーノの腕の中から抜けだそうとすると彼は彼女の胸に顔を埋める。

「だめ、ご飯さめちゃうでしょ。私お腹すいたもん」

厳しくディーノを律するなまえは僅かに心が揺らいだ。埋めていた顔を上げて、背中を少し丸めて彼女を見つめる彼の瞳はホットミルクにいれて溶けた蜂蜜のように甘く丸い。

「我慢して」

「・・・手厳しいな」

ディーノははぁ、とため息をついてなまえを抱き締めた。まるで空港で別れを惜しむ恋人同士の様に。といっても2人は同じ屋根の下に暮らしているのだが。
お預けを食らってしょんぼりする彼はまるでゴールデンレトリバーのようだ、となまえが思って微笑んだのはここだけの話である。











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