温めてほしいの



「お腹痛いの」

背中越しに聞こえたなまえの声にザンザスは気怠そうに寝返りを打ち、彼女の方へ向いた。
立て込んでいた任務に疲れた彼は食事もまともに取らず先に寝床にもぐっていたのだ。
目を開けるのも辛い程に眠いのか、眉間に刻まれた皺は深い。それでもなまえはこう続けた。

「ザンザスあったかいから、ぎゅってしてほしいの。ちがう、後ろから」

「・・・早くしろ・・・」

なまえを布団の中に巻き込もうと手を伸ばすもどうやら違うらしい。顔を向き合う様に抱き締めて欲しいのではなく、後ろから彼女はザンザスに抱き締めて欲しいようだ。

「ありがとう」

そう言ってザンザスの頬に口づけて、体を滑り込ませれば自身の背を彼に向ける。後ろから抱え込んでほしかったらしい。彼女のお望みのまま、ザンザスは腕を彼女の腹の方に回した。久しぶりに感じる愛おしい女の体の柔らかさに不思議な安堵感が彼を包み込む。

「お腹に手も置いてほしい」

「これでいいか」

「もうちょっと下がいい、そう、あったかい」

鼻から抜けるような声をなまえは漏らした。ザンザスの大きな手は彼女の下腹部辺りに置かれている。なまえよりも体温の高い彼に抱き締めてもらうと思ったのは正解だった、と満足げに目を瞑り眠気が訪れるのを待つ。じんわりと皮膚を通してザンザスの高い体温が下腹部にゆっくりと広がり、優しく小さく腹を摩るような親指がなんだかくすぐったくてなまえは笑ってしまった。

「なんだ」

「ううん、優しくしてくれて嬉しい」

「そうかよ」

穏やかな日差しの中、冷たい筈なのに温かな湖に包まれている気持ちだ。ベッドの中で眠っている筈なのに、なまえを腕の中に抱え込んでからザンザスはそんな穏やかな気持ちに包まれている。決して彼女がいなくては眠れない訳ではない。なのに、こんな風に穏やかな気持ちになるのはどうしてだろうか。たっぷりを日差しを吸い込んだ湖は透き通り、水面には小さな太陽な欠片がきらめく。水底には小さな魚が泳ぎ、水面を通してやってくる日差しを楽しんでいるだろう。夢を見ているような気持ちにザンザスはなった。いや、もしかしたらなまえを抱き抱えているのも夢のなのだろうか、いくつ夢を見るのだ、となまえの肩口に顔を埋めて彼は眠りへ落ちていった。

「生理痛だったの」

夢ではない。
随分と寝相が大胆な彼女は枕をいくつか床へ落としたようで、拾い上げながらザンザスに腹痛の理由を話した。彼は依然ベッドの中だ。
枕のカバーを取り、裸になったそれをベッドの端の方へ積む。
彼女は平然と話しているが彼はなんと言葉を返せば良いかわからない。ぼんやりと窓を眺めて言葉を探してみるも出てこない。彼には、というよりも殆どの異性には不得手な話なのかしれないし、愛する彼女に気を遣おうと精一杯努力しているのかもしれない。

「そんなに痛いか」

「まあね。ずっと我慢してたんだけど、薬もなかったしお湯をこさえる元気もなかったし。でも温めると痛みは和らぐから、じゃあザンザスに抱き締めてもらおうかなって。
私より体温高いでしょ」

確かに彼女は自分よりも体温が低い、とザンザスはなまえの手に触れたときの事を思い出した。引き出しから出した替えのカバーを枕に付け替える音が部屋の壁に当たっては消えていく。

「まだ寝るでしょ?」

「次からは早く言え」

「え?」

そう言ってザンザスはなまえに背を向けるように寝返りを打ってしまった。
彼なりの精一杯の気遣いである。きっと彼女でなければこんなにも彼は気を遣ったりはしなかっただろう。鎮痛剤でも飲んでおけ、という言葉を抑え込まずそのまま言っていただろう。

「お腹痛くなくても抱き締めてね!」

「るせぇ」










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