冷やしちゃ駄目だからね



お腹が下に引っ張られている。お腹、というよりも下っ腹の方だ。なまえはベッドに戻って暖かな布団に体を包みたいのに酷い痛みによってそれが出来ない。
うう、と唸りながら体を丸く小さく縮こまらせている。このままどうにか眠れれば痛みなど忘れられるのに、と眉間に皺を寄せながらも眠ろうした。
しかしこの痛みがそう簡単に治まる事もなければ、痛みのせいで眠りに落ちるのは難しそうだ。


「なまえ・・・?」

痛みと戦う事、十数分。
ディーノはいつもなら玄関まで迎えに来てくれるなまえを探して、彼女の部屋までやってきた。するとどうだろうか、彼女は小さな暖炉の前で真新しい絨毯の上に寝っ転がっている。

「・・・おかえりなさい・・・」

「ここで寝てると風邪引くぞ」

いくら暖炉があるとは言え、火がくべられていないのか随分と小さい。それでもなまえは暖かさを逃しまいと絨毯の上で体を縮こまらせたままだ。ここで寝ていれば冷えてしまうだろう。ディーノの言葉に力なく返事をするだけで動かない、どうしたんだ、と聞けば暫くの沈黙を得て小さな声が彼に届いた。

「お腹痛くて・・・動けないの・・・」

「何か悪いもんでも食ったのか?」

なまえの側にやってきたディーノを見遣ればダークグレーのスーツによく映える色のマフラーをしている。今日は随分寒い、と朝の天気予報で言っていたがコートを着ずに出かけたのだろうか。まさか、部下のいない時に転んで汚したんじゃないか、と心配になったが痛みを堪えるべくなまえはまた一たび瞳を閉じた。
何の事かさっぱりわからない彼は片膝をついて、彼女の乱れた髪の毛を直しながら質問の答えを待つ。ああ、これは答えなくてはいけないのだ、と観念して彼女は答えた。

「違う・・そういうのじゃないの・・・毎月だから・・・」

毎月。

あれ、もしかして、とディーノは途端にそわそわとし始める。
なまえはそれ以上何も言わずに、いや言えないのかもしれない、眉間に深い皺を作って目を閉じるだけだ。瞼を閉じた事で視界は当然真っ暗なのだが、ディーノが立ち上がる音がした。その後すぐにばたん、と大きな音で彼が転倒した事を知る。一体どこに行って何をしようとしているのだろうか。扉を開け放している筈なのに部下は誰一人こちらの廊下を通らない。何をしようとしているのかわからない。でも、どうか派手に転んだり物を壊したりしないで欲しい、と願う。

ただ静かに眠れればそれで良い、目を瞑っていれば眠気に負けて痛みがどこかに行く筈なのだから。転んだディーノはきっと誰か部下が助けるだろう。開け放した扉から聞こえる音で何が起きているかなんて、想像に容易い。でも、彼女は彼に構っていられる程の元気がないのだ。下腹部に強く手を重ねて、またやってきた痛みの並みに思わず声を漏らした時だった。

「寝るときは暖かい方がいいだろ」

どこかにマフラーを引っかけたのだろうか、彼の首元を彩っていたそれはどこかに行ってしまったが腕の中には大きなブランケットとお菓子が沢山だ。
なまえの手の届きやすい場所にお菓子を置いてから、ブランケットをディーノはかけた。

「薪を足してもらうように頼んだから」

「う・・・ありがとう・・・」

「なんか温かいもの飲むか?ホットジンジャーにするか?ドミティッラが何でも作ってくれるって」

首を少し上げてみれば、頭の側に置かれたお菓子はどれもなまえの好きな物だ。とろけるようなチョコレート、カラフルなベアのフルーツグミにサワークリーム味のチップスと蜂蜜味のキャンディー。これとブランケットを取るべく彼は転んだりしたらしい。
転ぶなら元気な時にして!と心の中で密かに怒ってしまった自分をなまえは少し恥じた。

「大丈夫、ありがとう」

自分には知り得ぬ痛みを堪えるなまえを見てディーノは少し心が痛んだ。ブランケットの中で蹲る彼女はなんだか寒そうだし、とても弱っているようにも見えた。眉間に刻まれた皺が少しでも緩くなる様に髪を手で梳かしてみる。薪がやってくるのを待っているだけなのに、なのに、ディーノは妙に眠くなってしまった。

「・・・お仕事は?」

「んー、また明日」

「いいの?」

「なまえと一緒にこうしたい」

ジャケットを脱いでディーノは寝転び始めた。小さく笑うなまえをブランケットの上から抱き寄せる。

「ディーノも、ブランケットに入る?」

ぱちり、と目が合う瞳はホットジンジャーに入れる蜂蜜よりも柔らかそうだ。
ディーノは嬉しそうにブランケットの中に潜り、彼女をしっかりと抱き締めて夕焼けに包まれながらお昼寝をすることにした。









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