顔に掛かる髪を何度、彼の手で直されただろうか。
慣れぬ快楽が下腹部から迫り上がる度に何度、強く握りしめたきらの手をザンザスは握っただろうか。
そう思って眠った事だけは覚えているし、かなりぐっすりと気持ちよく眠れたというのもわかる。

「起きたか」

ザンザスは彼女をそろそろ起こそうと寝室の扉を丁度開けたところだったのだ。
ペールブルーのシャツのせいでなんだかいつもより優し気に見える、と思ったのは朝食を共にしたベルもそうだった。

「・・・もう」

「午後だな」

「え、あの、私」

「疲れたんだろ」

それほど激しい夜だったのだろうか。
きらは慌てて体を起こして、寝起きで乱れた髪の毛を手で整える。寝起きの顔等何度も見られているし、なんなら涙やら泥やらでぐちゃぐちゃになった顔も見られた事もある。だとしてもそれ以上に気恥ずかしいものが彼女にはあった。
体を完全に交わらせた訳ではないのにどうにも恥ずかしいのだ。額に掛かる髪の毛をどかすよりも先に、ザンザスがベッドに腰かけきらのその髪を後ろの方へとどけられてしまう。

からっとした空気の中に何か甘く鈍い香りが混ざり始め、ザンザスの瞳の奥底で何かが揺れている様にきらには見えた。そうえいば昨夜も、と思い出さずとも脳内で彼の鋭く激しく燃え上がった赤色の瞳を思い出してしまった。

彼の瞳を赤く煌々と輝かせるようにたっぷりと満ちた情炎が恐ろしく何度、目を反らそうとしただろうか。そして、一体何度、それを許してもらえなかったのだろうか。
自身の頬を撫でる、目の前にある瞳と記憶の中の瞳が重なりきらは今にも恥ずかしさでベッドから逃げ出したかった。胸は火をつけられたかのように早く鼓動を打ち始める。
彼に見つめないように願わなければ、このまままた、彼の炎に飲まれてしまう。


「・・・あの」

「なんだ」

「恥ずかしいから、あんまり見ないで・・・」

「ああ?」

きらの言葉にザンザスはそのまま彼女をベッドへと押し倒した。きゃーっと悲鳴があがり、ベッドから枕がいくつか転がり落ちたが彼は気に留めていない。そのままきらの首筋や胸元に噛みつけばくすぐったいのだろう、可愛らしい笑い声が寝室の中を満たしていく。
昨夜とは違った、熱っぽさなどこにもない丸く甘いじゃれ合うような触れ方だ。ベッドから落とされてしまわないようにと、きらは彼の首に腕を回せば上機嫌にザンザスは口づけを落とした。


「どうせ慣れる」

「いつ?」

「すぐ慣れるだろ」

ザンザスは愛おしそうにきらの髪の毛を手で梳かしながら、ぶっきらぼうに答える。
熱が昨夜で消え切ったかと言われれば嘘になるだろう。熱を放ったとは言え彼にとってはまだ足りない。ちょうど組み敷いているのだし、出発前にまたしてもいいかもしれない、とザンザスは思案したがどうにもそれは憚られた。

きらは恥ずかしいと言いながらもくすくすと笑いながら、ザンザスの事を見つめている。どこにも棘などない、陰りもない明るい瞳だ。柔らかな白桃の皮膚をゆっくりと剥がしていくのも悪くない、と思えた。無理にその肌に歯を立てれば瞳の底が濁ってしまいそうな気さえもしたのだ。

「また今度だな」

「・・・ゆっくりしてくれるでしょ」

ザンザスは答える代わりに口づけをきらにまた一たび落とした。

でも、ホテルを出る前に自ら彼の首に腕を回して爪先立ちをして口づけをしたときに獅子の心を僅かに揺らしたのには気付いていないし、ザンザスもまさか、と思ったなんて知らないのだ。




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