ザンザスは少しだけ、ほんの少しだけ視線を上げてみるきらが好きだった。

姿勢を正してしまえばきらの方が彼を見あげることになるのだが、それでも背もたれに寄りかかりながら彼女を見つめるのは良いものだった。
自分を見つめる眼差しも、首に回された腕も、柔らかな脇腹や足も。全て自分のものだと改めて思えてザンザスは好きなのだ。きっと彼は自分以外の男には決してできない事だからだと、無意識に理解している。ハグを交わすのも、チークキスを交わすのも誰とでも出来るが、こればかりは婚約者である彼の特権なのだから。


「ボスのお膝はきらちゃんの特等席ね」

「どういうこと?」

「わかってないわね、ハニー」

ルッスーリアはきらに夏服を見立てながら話を続けた。
ようやく訪れた夏の女神は燦々と輝く胸元のネックレスがお気に入りらしい。丁寧に毎日磨きをかけているせいか、暑い日が続いている。きらの足元の爪を彩っているのはルッスーリアがお気に入りだという緑色のマニキュアだ。夏の日差しを受け入れてぐんぐん伸びた、パームツリー色だ。

「きらちゃんを膝の上に乗せてる時のボス、とっても幸せそうなのよ。あなたは見慣れてしまったかもしれないけど、優しい眼差しであなたを見つめてるわ。唇の端だってほんの少し上がってて。愛おしげにきらちゃんの髪の毛を撫でてるでしょ。あら、これいいんじゃない?」

「・・・そうかな?」

「どっちに言ったの?」

「えっと、ザンザスさんの方」

「本当よ!あんな幸せそうなボス、私今まで見たことないわ!さっ、これ試着して頂戴」

そう言われてきらは試着室の扉を閉められる。服を脱ぎながら、膝の上に乗った時を思い出す。言われてみればザンザスの眼差しは優しい。しょっちゅう乗っている訳ではないが、乗せてくれる時はすごくご機嫌な気がしてきた。こっちにこい、と言って手を引いてくるザンザス。ああ、好きかもしれない、ときらは試着室で恥ずかしくなる。
膝の上に乗せてくれた時の彼は優しい。いつも優しいけども、もっと優しいと感じてしまうのだ。レッドドワーフと呼べない程に優しい赤い瞳でこちらの様子を伺ってくる。ルッスーリアの言う通り、きらの特等席であり彼女にしか向けられない眼差しである。それにザンザスの膝の上でうとうとしてしまう時は、彼の優しさを最初から最後まで独り占め出来ている気がしてきらは幸せな気持ちになる。

「あらぁ、可愛いわよ〜!」

「私もしかして太った?」

膝の上に乗っている時を思い出して鏡を見た時だった。涼しげなワンピースだが、このサイズなら今までもう少し余裕があった筈だ。

「いやだわこの子ったら。ぜんっぜん太ってないわよ!太ったってちょっとカーヴィになったぐらいでしょ」

「ザンザスさんが重いって思ってたらどうしよう!」

「ボスが?おほほ、ありえない話だわ」

「ほんとに?!」

「今度の旅行で聞いてみたら良いわ。大丈夫、私がワークアウトに付き合ってあげる」

ルッスーリアは楽しげに小指を立たせているがきらは首を横に振りたくなった。
彼のワークアウトに到底ついていける自信がないからだ。

「旅行、楽しみね〜。あ、これ、お会計お願い出来るかしら?ええ、一括で」

来たる旅行では彼らの所有する別荘に行くという。詳しくは聞いていないが水着が必要で、夜はぐっと涼しくなるかもしれないから薄手のはおりものを、とルッスーリアが教えてくれた。さて、彼女が向かうのは山か海か、それとも湖か。
きっと彼女はそれよりも自分の体重の方が心配かもしれない。

「夕飯、少し減らす・・・」

「そんな必要ないのよ!」

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