きらが目覚めたのはナターレの二日後、それでもルッスーリアは喜んでイタリアのナターレ料理を振舞ってくれた。勿論、城に住まうシェフも喜んで手を貸してくれたおかげで、ナターレ休暇であるのに新鮮なチキンを手に入れる事が出来た。
彼らイタリア人にとって普通であっても、きらには十分豪勢な夕食であった。

赤々としたトマトが乗ったブルスケッタ、オリーブ、生ハムにスモークサーモンを前菜で食べては、程なくしてにたっぷりとラグーソースがかかったパスタが運ばれてきた。これはイタリアらしいわね、とルッスーリアが言って運んでくれたのはトルテッリーニが入ったスープパスタであった。パスタ生地の中にひき肉とチーズが入っている様だ。きらはイタリアのワンタンみたい、と思いながらブイヨンスープまで綺麗に平らげた。

「食欲旺盛だなぁ」

「いいことよ!お代わりだってあるんだから!」

スクアーロは三本目のワインに手をかけながら笑う。年末にこうも人が揃うのは珍しいらしい。マーモンは騒がしくてかなわないよ、と言いながらため息を吐く。彼の不満な唇の先に居たのはベルとレヴィである。きらにはわからないがイタリア語で喧嘩しているようだ。もーやめて!と言いながら、ルッスーリアは皿を片していく。モナコのマルシェ・ド・ノエルで買った銀色のテーブルランナーは銀色に輝いている。そして、そのテーブルランナーの上に、メインの丸々と太ったチキンの丸焼きが二つ運ばれてくる。
ルッスーリアに聞けば、皆がちゃんと骨付き部分食べれるようにと配慮してくれたらしい。慣れた手つきで切り分けられると、ピカピカに磨かれた皿の上に骨付き肉とチキンの下にいた野菜が取り分けられた。オーブンで焼かれたじゃがいもってどうしてこんなに美味しいの、と思わず笑みがこぼれたがそれに気づいたルッスーリアはきらに口づけを投げてくれた。

「うさぎの時もあるよ」

そんなハートも何のその、ふとしたマーモンの言葉にきらは驚いた猫の様に目を丸々とさせたせいでハートは散ってしまった。一昨年はそうだったよ、と。そういえば有名なうさぎの物語のお父さんも・・・と思い出しては自分には食べれるかしらと考えながらチキンを頬張った。

「さっ、次はボスの大好きなお肉よ〜」

「チキンだけじゃないの?」

「イタリアでは普通だ」

骨だけが残ったレヴィのお皿が下げられていく。もうお腹いっぱい、と彼女が思っても彼の言う通りここはイタリア、郷に入っては郷に従えなのだ。運ばれたものはワインと香草で煮込んだ牛肉料理である。さすがにここからは皆の食べるペースも落ちていた。大好きな、と言われていたザンザスも思った程大きく取っていない。それかきらが大きく想像しすぎたのか。

「無理に食わなくて良い」

肉料理によく合うという赤ワインをザンザスは飲んだ。ウィスキーを飲む姿は幾度も見たが、ワインも飲む姿は新鮮だった。

「ちょっとだけ食べる?」

きらは頷いて、小さく肉を取り分けて貰う。そして、ワインではなく炭酸水を飲んでから牛肉を口へ運んだ。前菜から食べ続ている後に食べるには重い、というのが素直な感想だったがせっかく作ってくれたし、ときらは頑張って皿に乗せた分は完食した。
けれども、ベルが殆ど取り分けて貰ったままの!お肉を遠慮なく残しているのを見て、自分もそうすれば良かったかもと後悔もした。明日まで満腹かもしれない、それくらい食べたのに、まだまだデザートが待ちかねていた。
それはイタリアの伝統菓子、パネットーネとトロンケットが二種類であった。後者のケーキはフランス語で言えばブッシュ・ド・ノエルに当たる。デザートは別腹とはよく言ったもので、きらはどちらのデザートも一切れずつ、それも少し大きめなのを、ぺろり、と食べてしまった。

「あら、ボスもういいの?」

ザンザスは寝る、とだけ言ってエスプレッソを飲み干してから華やかな食堂から部屋へ戻った。恋人らしくおやすみの口づけもなく、ただ空間を共有している存在のように彼はきらに声も掛けない。きらもきらで、どうやって恋人らしく振舞えば良いかわかっていなかった。でも、とりあえず今はこの暖かさを楽しみたかった。
岩肌を隠すように生い茂った深い森に囲まれた古城、その中で唯一暖かく輝くキャンドルはきらがずっと触れたかったものだったからである。

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