ずっと寝ていた気がする、ときらは思った。日もまだ出ない暗い時間に、最も寒い時間だけれども彼女はシャワーをした。皆んなが起きる時間に談話室に行こう、と決めたのに。ドライヤーをした後、また、眠くなってしまった。大理石のシャワールームで清々しい目覚めを感じた筈だった。瞼はあっという間に重くなって、きらはまた眠ってしまったのだ。
 
 彼女以外の人間が目覚めた頃、窓の外は真っ白だった。

「すごい降ったわねえ」
 
 一度は止んだはずの雪だったが、昨夜から降り続いたせいで外は一面の雪景色となった。空は少し曇っているが、それでも僅かな日差しを反射しているせいか、明るく見えた。そして珍しく、今年はヴァリアーの幹部が揃っていた。どうやらこのまま大晦日まで、皆屋敷にいるらしい。今年は不思議な年ね、と笑う彼にスクアーロは肩を竦めて見せるだけだった。商業施設が年末休暇に入られる前にルッスーリアはシェフと献立を考えなくちゃ、と談話室を後にする。そこに残されたのは、スクアーロとザンザスだけだった。スクアーロはそういえば、とザンザスに話しかけた。
 
「ヴェントのファミリーへの始末はどうするんだぁ」

 俺はこうした方が良いと思うぞ、と新聞を捲りながら言う。けれども返事はない。
 
「寝てんのかぁ・・・ってう゛[#「う゛」は縦中横]ぉぉい!何か言え!!」 
 
「るせぇ、カスが」
 
 ザンザスはお気に入りのソファーに、スクアーロが読んでいるのとは違う新聞を置いて、どこかへ行ってしまった。
 向かう先は昨夜に同じくきらの部屋である。別に、彼女のせいで上の空という訳ではないのだ。ただ単に、今仕事の話をするつもりはなかった。始末も何も、すぐに片付く話だ、と彼は踏んでいた。それに、彼の婚約者が目覚めない限り報告もままならない。
 
 控え目に彼女の部屋の扉をノックするのは何度目だろうか。今日も返事はなかった。静かに扉を開ければ、残されたままの七面鳥があった。王子優しいから、とベルの譲った骨つき部分だ。けれども、ザンザスは昨夜彼女が着ていたパジャマをソファーで見つけた。シャワーはしたのだろう。薄紫色のパジャマから薄緑いのパジャマに変わっている。
 少しだけ、彼が不安に思うくらいには今日は静かに眠っていた。往診に来た医師も、疲労が溜まっていると言っていた。それでもまさか、と思い手のひらを彼女の口と鼻の間にかざす。彼の考え過ぎだったらしい。ザンザスは小さくため息を吐いて、ゆっくりとベッドに腰掛けた。彼が不安になるのも無理はないだろう。今日のきらは、まるで森の中で眠るお姫様よろしく眠っているのだ。昨日までは、赤子のように丸まってよく顔が見えなかった。かといってよく見えるか、と聞かれればそうではない。分厚いカーテンが曇り空から見える僅かな日差しを遮っている。でも、ザンザスには十分な程彼女の顔が見えた。
 
 彼とは違って、頬は柔らかそうだ。傷もどこにもない。彼に比べれば曲線的な顔付きだろう。何となくの興味で、ザンザスは丸い額を指の背で優しくなぞってみる。
 別に力は入れてないし、何か痛めつけようともしていない。なのにきらの眉間には皺が生まれ、穏やかな眠り顔から一転、彼女は泣き出してしまった。夢でも見ているのだろう、それでもザンザスは、突然泣き出した彼女にギョッとした。

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