ゲストが半分程集まったくらいだろうか、大広間ではバンドの演奏が始まる。
雑誌で見た事あるような、ないような黒髪の女が真っ赤なドレスにレッドグリッターの眩しい唇で月を描いてはシルバーに輝くマイクに向かって古き良き往年のクリスマスソングを歌い始めた。

広間は十分に暖かくされたいたが、ようやく温度がクリスマスの装飾に馴染んできたようである。先程までは聞こえなかった笑い声や、久しぶりの再会を喜ぶ声、ゲストが集まってきたのか、談笑の声は次第に大きくなり、この場所だけが世界中の幸福を集めたかのように華やかなっていったのだ。

やってくる人々にいつの間にか気圧されていたきらの肩をルッスーリアが叩く。

「見て、上」

上を向いて見えたのは大層立派なシャンデリアだが、随分と高いところに立派な赤いヴェルヴェットのリボンをつけたものだ。それも一つだけではない。広間にあるシャンデリア全てにだった。きょろきょろとする婚約者にザンザスは顔を顰める。彼にとっては見慣れたものだったが、彼の中にあった初めて見たときの記憶が僅かに蘇った。

きらにとって当然当たり前ではないこの光景は、彼にとっても暫く前は当たり前ではなく新鮮であった事を。

彼女の瞳には先ほどまで浮かんでいた雲はどこにもない。きっときらにしか見えない金の粉でも捉えているのだろうか。彼女の瞳に浮かぶのは小さな星でも何でもない。頬っぺたを膨らました天使が、彼女の瞳を輝かせるべく金の粉を落としているのだ。それくらいにきらの瞳は輝いていた。

「・・・すごい」

「華やかでしょ?」

「とっても」

こんな風に感動することがあったのか。きらはルッスーリアの言葉を噛み締めるように頷くいていたがザンザスにはわからない。彼女の表情をしっかり見ようときちんと意志を持って思ったのは今日が初めてに近しいからだ。とはいえ、きらにも他の誰にも気付かれないようにザンザスは彼女を観察した。観察、というには柔らかすぎるが、かといって見つめていたというには硬すぎるだろう。

「きら、みーっけ」

「めかし込まれたなぁ」

真っ黒なスーツに身を包んだスクアーロの言葉にきらははにかんで見せた。肌の白い彼だ、それに髪だって銀髪である。一層彼の肌の白さや銀髪の麗しさを際立たせたが冬の夜空に浮かぶ白銀の星を思ったのはきらだけではなく、ルッスーリアもだった。

「自分もそうじゃないの?」

スクアーロは違う、と言いたげに首の前で手を水平にふってみせる。きっとルッスーリアが指定したのだ、ときらは聞くまでも無い気がした。

「オレは自分で選んだけど」

「王子だから?」

「わかってんじゃん」

サンタクロースのお手伝いをさぼったエルフが代わりにベルのスーツに青色の水を注いだのか、ルッスーリアに指定されたであろう黒のスーツはほんのりと青みがかっている。勿論、よく見なければわからないのだが、ルッスーリアからはわかってるわよ、と自身の両目をピースサインで刺してはベルにそのピースサインを向けた。

「マーモンちゃんにはおしゃぶりじゃなくて、トナカイを飾ってあげたかったんだけどねえ」

「いやだよ」

「キャンディケインは?」

「金貨にしてくれるかい?」

そんなベルの腕の中にいるマーモンはいつもと変わらなかった。強いて言えば生地はスクアーロとお揃いだったが、わかるのは生地を選んだルッスーリアくらいだろう。マーモンに断られたキャンディケインは行き場を失いかけるも、ベルがきらの手から奪った事で事なきを得た。

場所の高揚感も相まってきらはなんだか自分が夢の中に、おとぎ話の中にいる様な気がしてならない。彼女の頬がほんのり赤く染まっているのは酒のせいでもなく、飲んでいないのだから当然で、部屋の温度のせいと彼女自身が高揚していたからだ。
毎日がクリスマスなら誰も涙がしないのに、とはよく言ったものできらもすっかりクリスマスの魔法に取り込まれている。自分の誕生日ではないのにこんなに祝福されている様な気持ちになれるものだろうか、と不思議でたまらなかった。

世界中の幸福が集まった場所にいる気がして、きらはただただ楽しい気持ちでいっぱいだった。

「きらちゃん、写真撮りましょ!」

「王子に撮らせる気かよ」

「もう、ベルちゃんったら!おだまり!」

気怠そうに舌を見せるベルが持つスマートフォンの画面に写っているのはきらとルッスーリアである。二人の後ろにあるのは玄関に飾られたものと引けも劣りもしない立派なクリスマスツリーだ。

そのツリーよりも明るい緑井のドレスワンピースに身を包んだきらの背中に手を添えて、自身のくびれに手を置いたルッスーリアはさながらモデルである。

「きら、視線落ちてる」

ごめん、と言った矢先シャッターを切られルッスーリアはいそいそと自身のスマートフォンを取ったが写っていたのは二人ではなくベルのセルフィーであった。

「ちょっと!ベルちゃん!」

「ししっ」

「撮り直しよ!」

写真よりもツリーに夢中だったきらは後ろから再びルッスーリアに肩を引かれ、カメラの方へ向く。振り向きざまに唇のグロスに髪の毛が一本だけついてしまったのを、彼が見逃すはずもなく優しく髪をもとの位置に戻した。

「ボスに怒られちゃうかしら」

「・・・ないよ、多分」

「あってほしいのよ、私は」

辺りは演奏と話し声で賑わっており、ルッスーリアの声もきらの声も2人にしか聞こえない。ベルが何か茶化したが、乙女の邪魔をしないで、と言われて終わってしまった。

ポーズをいくつか変えて、視線をたまたまカメラからきらが外した時だ。
ぱちり、とザンザスと視線があったではないか。彼の横にいるレヴィはいたく険しい顔をしているがザンザスの表情は相変わらず読めない。
ルッスーリアとこうして写真を撮っているだけでザンザスが焼きもちを焼くとは思えなかったし、髪の毛を直してもらっただけで不満そうな顔をする彼にも想像できなかった。

でも、もしその相手が彼だったら?

きらは目尻の下がほんのりと、不本意ながら赤く染まってしまったのではないか、と恐れ頬に両手を添えた。婚約者同士なのに、婚約者というには距離はまだ遠いからか、きらはザンザスに抱いた恋心を知られたくなかったのだ。

ルッスーリアがクリスマスの魔法が彼女に贈物をしてくれたら良いのに、と願ったにもかかわらず。

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