煩わしい。

談話室に置き忘れてしまったコートのポケットに手を入れると、チクリ、と指を何かが指した。屋敷の中は訪れるクリスマスに浮足立つように日に日に装飾物が増えていく。クリスマスの装飾が増えれば増える程、きらが喜ぶからだろう。ルッスーリアはそれが嬉しくてたまらないらしい。ベルも楽しいようで、いつもなら買ってこないような土産をたらふくこさえていた。十分に飾られているのに一体どうするのだろうか、と疑問を投げたくなる程のクリスマスのオーナメントに小さな白い木馬が談話室の床に転がっていたのだ。

『いけね』

全く反省の色の見えないベルの声がザンザスの中で再生される。
うっかり置き忘れたコートを取りに談話室に入った時だ。仰々しい程に銀色に輝くパーティーポッパー、クラッカーを扉に向かってベルが放ってしまい、偶然にもザンザスが入ってきた。ベルの側にいたきらは驚き口を押さえたが、クラッカーから飛び出したシルバーのメタルテープや雪の結晶を模した小さなスパンコールに夢中になった。
心配そうにザンザスを見つめていた瞳が、一瞬にして向きを変えたのはまるで幼い子供の様であった。

『早く報告書を出せ』

そう言い放って、コートをひったくるようにして談話室を出たのだが、まさか、出先でこんなものを見つけてしまうなんて、とザンザスはなんだか気持ちが落ち着かない。ポケットから指を刺した物を見れば、ほら、あのクラッカーから飛び出したスパンコールである。一体どうやってポケットに滑り落ちたのか。あんな場所にコートを置き忘れなければよかった、と思ったのが正直な気持ちである。

『雪みたいじゃね?』

『まあ・・・』

床に散らばったクラッカーの中身を見てこそ、きらは苦い顔をしていたが、中身が宙を舞っている間は飛び散るスパンコールに触れようとしていたのをザンザスは見逃さなかった。掌でグリッターを受け止めては、自身の掌でちらちらと小さく輝くグリッターに心奪われているようにも見え、雪がこんなに輝く訳があるか、と言いたい気持ちも失せてしまった。

物珍しそうにあたりを見回した彼女の瞳を縁どる睫毛は扇のように広がり、自身の頭にのってしまったメタルテープを取る手は優し気であった。落ち着かないのだろうか、両手を見比べたりと、忙しない仕草だったがザンザスは屋敷を出てすぐにその理由がわかった。
クラッカーの中に仕込まれたグリッターが手についてしまったのだ。
ザンザスにはただただ苛立ちの要素でしかなかったものの、きらにとっては興味ぶかかったのだろう。事実、きらはクラッカーの中身が床に全て落ち切った時、どこか寂しそうな表情をしたのだから。

「あらやだ、ベルちゃんのせいね」

ルッスーリアは車を降りたザンザスの背中、正しく言えばコートなのだが、背中に着いた僅かなグリッターを発見したのである。彼は自身の上司がこういう類のものが衣服に着くのを嫌うのをよく知っていた。過去に、女が親し気にザンザスと腕を取り合って歩いていた後で、彼がジャケットを払っていたのを見た事があるのだ。
きっと女のアイシャドウかハイライトでもついたのだろう、とルッスーリアは容易に想像出来た。洗濯で落ちない事はなかっただろうに、以来そのジャケットは勿論、女も見ていない。

ザンザスは苛立ちを込めたため息を吐いて、コートを寒空の下脱ぎ、非常に苛立たしそうにコートを払った。少し払えば良いのに、何度も何度も、本当にその小さく輝くグリッターが無いか確かめるように何度も払う。まるで、頭の中で繰り返し思い出されるきらの姿を払うように、である。


煩わしい、煩わしい。
払われている筈なのに、何度払ってもグリッターが湧き上がる様な気がしてならない。


「ボス、もうないわよ」

ルッスーリアはボスったら、と茶目っ気たっぷりに呼んだがザンザスはどうにも落ち着かない。今度ついた溜息には苛立ちなど込められておらず、自身を落ち着かせるような溜息のつき方だった。

グリッターのように、この胸の中で疼くものを払えたらどんなに良いのだろうか。
そして、ポケットに入り込んだスパンコールを何故か捨てれなかった理由をザンザスはまだ無視し続けるようだ。

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