きっと、サンタクロースも、鼻の赤いトナカイも、エルフ達も待ちくたびれて寝てしまうだろう。それくらいルッスーリアとのドレス選びは難航した。ザンザスに至ってはソファーに寝転び、うたたねを始めてしまったし、きらのドレスが決まらなければ彼のスーツの生地も決めてならない!というくらいなのだ。
きらは幾度も繰り返される着替えに疲れ果てて、ドレッサーの椅子に座り膝の上に頬杖をついたままである。ザンザスは寝てるからと、ここぞとばかりにドレスの裾を膝の上まで捲り上げ、冬には涼し気な足を晒した。誰か寒がりな人間が温水暖房機を管理しているのだろうか、彼女は暑くてたまらないのだ。
ルッスーリアのイタリア語をバックグラウンドミュージックにきらも少し目を瞑る事にした。
まさか、ザンザスが自身の部下の、ルッスーリアの興奮した声で目覚めたとは思いもせず。
「きらちゃんにそんなごてごてしたの似合わないわよ!」
よくもまあこんなに喋れる、とザンザスは半ば呆れながら部屋を見渡した。見渡すやいなや、視界に飛び込んだのはきらの素足である。頬杖をついてうたた寝をしているようだが眉間には皺が寄っていた。真一文字に結ばれた唇はよく手入れがされており、冬にしては十分な程に潤っている。頬が柔らかそうなのは勿論、晒された素足は何故か酷く艶やかに見えた。その足を引っ張って、自分の足元に転がす様子をザンザスは想像する。驚いたようにこちらを見遣るだろう。それとも、恐怖のあまりきらは何も話さないかもしれない。
「見てちょうだい、あの着てるドレス。大女優じゃあるまいし。彼女の魅力が引き立たないドレスだなんて着せれないわ!主役はきらちゃんなのよ!」
ルッスーリアの言う通り、今彼女が着ているドレスは彼女には少し派手過ぎるだろう。膝上まで深くスリットが入っているであろうドレスだが、裾の方に近づけば近づくほどスワロフスキー小さく幾重にも連なったものだ。それよりもザンザスは、彼女のそのドレスを左右に引き裂いてみたい気持ちに妙に駆られてしまった。理由などわからない。スリットを左右に広げ、傷一つない、誰にも触れられた事がなさそうな太ももに噛みついてしまいたいと。
「・・・おい」
けれどもザンザスの白昼夢の様な、白昼夢と呼ぶにはいささかよこしまであるが、そんな考え事はすぐに止まってしまった。というのも、きらが大胆に裾を上げ過ぎているせいで見えてはならないものが見えているからだ。
「おい」
自分の声はそんなに小さいはずがない。なのに彼女には聞こえない。よっぽど寝入ってしまっているのか、はたまたルッスーリアのせいで声が聞こえないのか。
「きら」
「えっ?」
「パンツ、見えてるぞ」
名前を呼ばれてもなお、僅かに眠気眼だったきらの意識がさっと冴えた。頭の中を閉めていたカーテンは一瞬にして開かれ、目を細めずにはいられない程の青空が広がる。急いでドレスの裾を下ろし、慌てて椅子から立ち上がりザンザスの顔を見つめた。
恥ずかしそうに唇を噛み締めるきらに対して、ザンザスは悠然とソファーに寝転んでいる。さながら優雅な昼食を終えたばかりのライオンだ。重そうな王冠を掲げている彼が下着如きで何かをするとは思えない。思えないがきらは恥ずかしさのあまり何も言えない。こんなまさか、下着を見られてしまうなんて、と。それも自分のガサツな仕草のせいでだ。
「スリットのないものにしてもらえ」
きっと他の人間からには表情が何一つ変わらないように見えただろう。なんなら、彼からのアドバイスに聞こえたかもしれない。
けれどもきらにははっきりと見て取れた。意地悪そうに、どこか楽しそうに、こちらの反応を見て楽しむように、口の端を緩やかにあげていたのを。ちらり、と姿を現したのは綺麗に生え揃った歯である。ずっと恐ろしく思っていたライオンに指の先を悪戯に舐められたような気がしたのは何故だろうか。
「ルッスーリアお願い、もっと普通のにして!」
「んまあ!ほら、この子が堪えれないドレスなんてだめなのよ!」
もっと色気のある下着にしろ、と言ったらどうなっただろうか、と考えながらザンザスはまたお昼寝に戻ってしまった。