Was it witching hour?




ただの噂だと思ってた。
姿の見えない、年齢もわからない、どんな色で、どんな香りをまとっているかもわからない。全てがぐちゃぐちゃになっているくだらない噂だと思ってた。

なのに、まさか、本当に吸血鬼がこの世にいるなんて誰が想像できた?

確かにママは言ってた。曾祖母は吸血に見初められて人間の世界から姿を消してしまったという事を。でも私にはそんなのただの、夜遊びを咎めるために言ってる話だと思ってたの。ほら、情操教育ってあるでしょ、ああいう感じかと思ったの。
しがない大学生、勉強するのは好きじゃないけど別に苦でもない。友達は多くないけど、仲良しの子はいるし親友もいる。いないのはボーイフレンド。
そんな私に事件が起きたのはハロウィンパーティーの帰り道だった。親友に誘われて行った沢山の人がいるパーティ、皆けっこうセクシーな仮装してて驚きつつも写真を撮ったり、滅多に食べれない有名店の出来立てのピザを食べて、ショットを煽る参加客を眺めて踊って。
大学生ならよく見たり聞いたりする範囲のパーティだった。一体何人の子が翌朝には誤ってSNSにあげてしまった写真を削除するんだろうって考えながら歩いてたら、ごとんって音がしたんだよね。

ごとんって、すごく鈍い音。何も割れてないの。変でしょ、でもそのまま引き返せばよかったんだけど引き返さないでその音の方に歩いて行っちゃった。だって家がそっちの方向なんだもん。

まんっまるのたっぷりと蜂蜜を漬け込んだ様な月、魔女が箒に乗って飛んできたっておかしくない月夜だった。

その下にいたのは夜闇に溶け込む黒猫と同じくらい、黒い髪を持った男の人。
唇には少し血がついてて、瞳は血よりも赤くて輝いてた。額についてる傷はなんだか月の光に浮かび上がりそうだった。そして、彼の足元に転がってたのは女の人。あの女の人が倒れた時にごとんって音がしたんだろうね。首元からは血が流れてて、ああ、死んじゃったんだって思った。

でも人間って不思議だよね。倒れ込んでる人を見るとぎょっとするの。本当に心臓が跳ねあがっちゃうんだよ、知らないでしょ。心臓が痛いくらいにどきって鳴って、倒れてる人にしか集中できないの。男の人は私に気付いてないみたいで、倒れた女の人をじっと見てたから、急いで家と逆方向に走った。伏し目がちでもわかる程に輝く赤い瞳。頭にこびりついて離れなくて、家に帰る途中にある交番に駆け込んだんだけど、お嬢ちゃん、酔っぱらいすぎだよって言われちゃった。

『でも、危ないからパトロールを兼ねて家まで送ってあげよう』

人生で初めて乗ったパトカー、私が見た場所まで着いたら、あれ?いない?

『やっぱりお嬢ちゃん、飲みすぎなんだよ。きっと酔っぱらった子をボーイフレンドが助けたんだろう』

そう言って警察はハンドルを左に切ったの。嘘よ、絶対、いたもん。
さっきまで女の人が倒れてて赤い瞳の男が見つめてたもの。

『満月ってのは人の気持ちを乱すからね。ゆっくり眠るんだよ』

私の飲んでたお酒になんかやばい薬でも入ってたのかな?
誰かに入れられた?ううん、自分で注いだし、人からもらった飲み物なんてない。
飲みすぎな訳ない。3杯だけ飲んで、あとはずっとノンアルコールだった。

もやもやしながらベッドに入ったけど、目を開けたらあの男の人が居そうな気がしてよく眠れなかったから、今日は最悪だったんだよね。




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