小説 | ナノ
真夏の獣に要注意
※触手×真江です


 青い空、青い海。白い砂浜に束ねた赤い髪を揺らし、愛らしい笑い声を立てて砂をまき散らしながらその上を駆けていく君。

 真琴はうっとりと瞳を細め満足気に何度も頷いた。
「……来てよかったなぁ」
「真琴せんぱーい!」
 波打ち際まで一気に駆けて行き、振り返った江が大きく手を振っている。
「何してるんですかー! 早く海はいりましょうよ!」
 ジッパーの開いたパーカーの合わせ目からちらちらと見え隠れする胸元に熱い視線を送ってしまうのは許して欲しい。
 何せ、真夏に愛しい彼女と人気のないビーチへやってきたのだ。
 下心が煮えたぎっても仕方のないことだろうと思う。純粋そうな顔をして真琴もお年頃なのだ。男子高校生という生き物は、頭の中はドピンクで、常にどうやって彼女と如何わしいことが出来るだろうと頭を働かせているであろう。しかもこんな、人気のいない彼女とふたりきりのビーチという最高のシチュエーションを前に真琴の理性も太刀打ち出来るはずがなかった。
 知らずうちににやけてしまう口元をなんとか掌で隠し、真琴も江に手を振る。
「ごめん! 今行く!」
 そして真琴は江の元へと駆け出した。

「水、まだちょっと冷たいですね〜」
「そうだね……でも、日差しが暑いから丁度良いぐらいじゃない?」
「そうかもしれませんね」
 上機嫌に微笑む江に、真琴の口元も緩む。
 気ままに泳いだり、浮き輪で浮かぶ江に水をかけたり抱きしめたりとそんじょそこらのカップルと同じように楽しい夏のひとときをふたりは過ごした。
 暫くして「少し休憩しようか」と言い出したのは真琴の方だった。
 はしゃぎ過ぎたせいか、少し喉が乾いた。
「俺、自販機で飲み物買ってくるから少し待ってて」
「はい! 私、荷物見てますね」
「誰もいないから大丈夫だとは思うけど、人が来て話しかけられてもついていっちゃ駄目だからね?」
 ガードは固いが危機感が薄い彼女に釘を刺す。すると、江はまるい頬をぷっくりと膨らませて唇を尖らせる。美しい顔立ちをしているというのに、ころころ変わる表情はまだ幼さがある。
「わかってますよぉ。もう、真琴先輩、お兄ちゃんみたい!」
 唇を尖らせて「お兄ちゃんみたい」という彼女はとても可愛いのだけれど、その一言は真琴の胸にぐさりと刺さる。
 けれども過保護なのは本当のことで、何も言い返すことの出来ない真琴は、ははは、と乾いた笑いを漏らしながらビーチから少し離れたところにある自販機へと足を向けた。

 ここはいつぞやに岩鳶水泳部の皆で合宿に来たあの島だ。江と付き合い出してから「また行きたいね」とふたりで話、お年玉貯金をちょっとだけ切り崩してやってきたのだ。
 普段とは違う一拍二日の小旅行になかなか寝付けず、少しだけ寝不足だとフェリーの中で話していた。
 ふたりが遊んでいるビーチは大衆向けのビーチから少し離れたところで、そこはふたりだけの秘密基地のようであった。偶然通りかかって見つけた際に「ここで泳ぎましょう!」と興奮し切った様子の江に押し切られる形となって真琴は頷いたのだが、誰にも邪魔されずふたりきりを楽しめているので、あそこにしてよかったと真琴は顔を綻ばせた。
 ガコンッ、と自販機が二回飲みものが落ちる音を立てる。取り出し口からひんやりとよく冷えた缶をふたつ取り出して、真琴は足早に江の待つあのビーチへと歩き出した。



「真琴せんぱーい!」
 ビーチへと戻ると、江は波打ち際で穏やかに寄せては帰る波を、暇を弄ぶように爪先で蹴って遊んでいた。
 最初着ていたパーカーを脱いだ彼女の真っ白い肌が太陽の光に反射して眩しい。兄である凛に言い聞かされていることもあってか、普段の彼女は露出の激しい服は控えている。しかし、今日ばかりは海に来ているということもあり、フリルのついた愛らしい小花が散ったビキニを着ていた。
 いつも見ることのない場所が真琴の下心を煽てたまらず、また真琴は頬を緩めた。

 だが、その緩めた頬は一瞬の内に硬直することとなる。

 江の背後にゆらりと蠢く影に、真琴は夢でも見ているのではないかと自身の目を疑った。
 その影は、イカにもタコにも見える。にゅるりと伸びる何本もの手足のようなものが爽やかなビーチに不釣り合いだ。それらは一度の瞬きの間に、静かに且つ素早く江の華奢な身体を捕らえた。
「きゃあっ!」
 江のつんざくような悲鳴がビーチに響き渡る。
「江ちゃん!!」
 その悲鳴に真琴はハッと我に帰り、手にしていた飲み物をその場に投げ出して彼女の元へと駆け出した。
 ぬるぬるにゅるにゅると彼女の白い肌の上を這うまるで軟体動物のような動きをするそいつは江の肌を滑り、際どい部分を意味深になぞる。
「や、やだっ、なにこれ、うそ、はなして……!」
 すぐ傍まで駆け寄ったのは良いものの、ゆらゆらと揺れる何本もの足が真琴を威嚇する。真琴はその生き物に「これ以上近づけばお前も餌食にしてやるぞ」と言われている気がした。
「ひゃあっ!」
 細長く伸びるぬるぬるのそれはぬめぬめした液体を吐き出しながら江の首筋、胸元、脇、内股、尻の割れ目、パンティーラインをふさふさした突起物のついた先端で刺激する。
 捕われて恐くてたまらないというのに、予想外の刺激に江は真琴に抱かれている時のような声を上げてしまい、顔を真っ赤に染めた。
「ふあっ、んっ、やだぁっ!」
 ふるふると左右に頭を振り、恐怖と快楽どちらかもわからない涙が江のうっとりするような紅い瞳から溢れる。その涙すらも許さないと言うみたいにそいつは江の頬に流れた水滴にさえ吸い付く。

(こいつ、もしかして)
 真琴の脳裏にひとつの名前が浮かぶ。ファンタジーの小説やRPGゲーム、エロゲと呼ばれる類いによく出没するイカに似たとんでもない生物。
 ――触手。
 いやいやそんなまさか、と出来る事なら真琴は呆れ顔で首を横に振りたかった。しかし、目の前の痴態にそんなこと出来る状況でもなく。
 艶かしい表情の江から目が放せず、思わず魅入ってしまいそうになる。

「はな、はなしてぇ……そんなとこ、こすっちゃだめぇっ……ひぅっ」
 触手の先端がこしこしと江のショーツの上から核心的な部分を擦る。付け根を這うもう一本の触手はあともう少しでショーツの中に入り込みそうだ。
 助けなければいけないというのに、徐々に勃ちあがり始めている自身に頭は持って行かれてしまって動くことができない。
(江ちゃん、ごめん……)
 真琴の口から熱に浮かされた吐息がこぼれる。
 思考の波に捕われているうちに、触手は江のブラの紐を解き、胸の先端を刺激していた。甘く立ち上がった桃色のそれは江が気持ち良くてたまらないことを示している。
「だめ、だめなの、ぁっ……乳首、きもちいいからっ、やめてぇっ……ひゃ、うんっ!」
 ビクビク、と軽く江の身体が震えるのを真琴は見逃さなかった。
(イッちゃった……江ちゃん乳首弱いもんな……)
 真琴は史上最高のAVを見ているような気分であった。
 目に入れても痛くないぐらい可愛くてたまらない彼女が謎の生物・触手にあられもない姿にされ、恐怖で身を震わせながらも快楽に抗えず涙をこぼしながら耐えている。
「すごい……」
 熱い吐息がカラッとした空気に溶けていく。
 その微かな声音を拾ったらしい江が、漸く真琴の視線に気付き、恥ずかしそうに表情を歪めた。
「やだ、だめ、せんぱ、見ないでっ……おねが、やだぁっ……んぅっ、」
 真琴の視線から逃れたくて江はまた頭を振る。けれども、そんな江はそうもしていられない状況となっていた。
 先ほどから足の付け根あたりをさわさわしていた触手がとうとうビキニのショーツの紐を解いてしまったのだ。
 片方だけ外れてしまったそれは江の恥部を露にし、容赦なく愛液に塗れたそこへと入り込む。
「きゃああっ!」
 膣の中に入り込んだそれは男性の生殖器のようにずちゅずちゅと卑猥な音を立てて江の中を荒らす。
「も、やだぁっ! ゆるして、いや、だめ、そんなおく、んっ、だめなのっ……ああんっ!」
 ビクビクと身を震わせながら断続的に訪れる絶頂に江はボロボロと涙を零す。
 それらに見とれていたせいか、真琴は迫り来る触手に気付けなかった。

「えっ? うわぁっ!?」
 本当に、一瞬のことであった。
 息をひそめて真琴の足下に迫っていた触手が、彼の足に巻き付き、ずるりと江の方へと引きずった。突然のことに体勢を崩した真琴はされるがままに引っ張られ、江の目の前へと連れて来られてしまう。
 絶頂の余韻から抜け出せないらしい江は真琴に気付かずひたすら触手からの愛撫に喘ぎ続けている。
 目の前に晒された彼女の真っ白な肌は淡く桃色に色づいていて、触れただけで火傷してしまいそうだとどこか冷静な部分がそう思う。
 現実逃避とも言えよう。
 なにせ、真琴もたった今、彼女をこんな風にしている触手に捕まってしまったのだから。
 真琴はなんとか力づくで逃れようとジタバタ暴れるが、身体中に巻き付いた触手の力には歯が立たない。必死に身を捩っていると、真琴の履いていた水着の裾から触手が入り込んできた。
「うっ、やめっ、」
 ぬめった感触が背筋に悪寒を走らせる。
 江のいやらしい光景にすっかり勃ちあがってしまった自身が触手の先端に包み込まれ、じゅぽじゅぽと派手な水音を立てて扱かれる。先端についた突起物が感じやすい亀頭周りを刺激して、すぐに真琴の思考の動きも鈍くなっていく。
 ぬちゅぬちゅとローションを纏い、手で扱かれているような、はたまた江の中に入っている時のような感覚にどんどん何も考えられなくなっていく。
「はぁっ、んんっ、くっ……」
「まこと、せんぱ……?」
「ご、う、ちゃ……ごめ、たすけてあげられなくって……うぁっ……」
「ま、まこと、せんぱ……ふっ、んんっ、あっ……らいじょうぶ、れす、ひぅっ……か……?」
 とろりと蕩けてしまっている江の瞳が間近にいる真琴を映す。彼女の赤の中にいる真琴も同じ様に蕩ける寸前で、甘ったるい表情をしていた。
 ぼーっとし始める脳内を叱りつけながら真琴はすぐ側にいる江へと手を伸ばした。触手に与えられる快楽で息も絶え絶えとなっているふたりは、大きな絶頂に言葉も出ない。
 のばした手をだらりと垂れている江の手に絡める。最早力が入らないらしい彼女の瞳だけがそろりと真琴に移される。
 赤く色づく唇はだらしなく開かれ、その端から唾液をこぼしている。身体が自由なら今すぐ舐めとって口づけたいと真琴は思った。
 そんな妄想が頭に過り、真琴の下半身が限界を告げる。
「は、も、やば……うぁっ……っ!」
 一段と大きくふくらんだ真琴のそれを察したように、触手は強くそれに吸い付いた。その瞬間、ドクドクと脈打ちながら吐き出される白濁を飲み干すみたいに収縮を繰り返している。
「ひゃうっ、ああっ、ああんっ!」
 江もまた、全身を隈無くいたずらされ、何度目かわからない絶頂にくたりと意識を手放してしまった。

 真琴が荒い息を吐き出していると、身体に巻き付けられていた触手の力が弱まり、砂浜に身が投げ出される。その後、江が身体が宙へと投げ出され、力が入らないながらも腕をのばして真琴はなんとか江を抱きとめた。
「江ちゃん……」
 疲れ切った江はすっかり夢の中のようで小さく胸を上下させている。
 ふたりを襲った軟体生物に真琴は視線を投げる。すると、そいつは細長い手足のようなものをゆらゆらと揺らし海の中へと帰って行った。

「一体……なんだったんだ……」
 ぽつり、真琴は呟く。
 先ほどまでの異様な光景が嘘のように青い海は穏やかに波音を立てていた。
 海から江へと視線を移すと、ローションのようなぬるぬるとした液体に塗れた身体にかろうじて江が身につけていたビキニが引っかかっている。
 潮の香りに混じって情事後特有のいやらしい香りが真琴の鼻孔をくすぐった。
 その香りに真琴の雄がまた反応を示す。
 眠りについている江は、温もりを求めるように真琴の逞しい胸板に擦り寄っている姿を目にし、真琴は猛烈にむらむらした。江は何度もイかされたわけだが、真琴は一度しかイッていないのだ。仕方もないだろう。
 脳裏に江のあられもない姿が蘇り、真琴の喉がゴクリと動いた。
「江ちゃん……ごめんね……起きたらもう一回、お相手願うよ……」
 誰に言うでもなく真琴はそう呟くと、江の身体を抱き上げ、荷物のあるパラソルの下まで戻るのであった。

 はたして、真の真夏の獣は誰であったのか、それは江しか知らない。
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