先輩ともう一ヶ月えっちしてない。
「はぁ」
昼休み。
机に突っ伏して甘ったるい桃色の吐息を吐き出す。
「欲求不満だねえ」
両腕に埋めていた顔を少しあげ、学生とは思わえぬ発言をする我が友人へとそろりと視線をやった。
「……恥ずかしいからそういう風に言わないで、花ちゃん」
ジト目で私が嘆きの声を漏らせば、花ちゃんはくすくすと身を震わせながら笑った。我が友人ながら可愛らしい笑顔だけれど、会話が会話なので何とも言えぬ気持ちになる。
「じゃあ何て言えばいいの?」
「…………欲求不満で良いです」
「素直でよろしい」
にっこりと花ちゃんは満面の笑顔を浮かべた。私がこんなに苦しんでいるっていうのに、なんでそんなに笑顔なんだろう。もう。
白い靄がかかった悶々とする脳内に、私はここ二週間苦しめられていた。理由は明確で、花ちゃんが申し上げた通り、私は欲求不満なのだ。
岩鳶水泳部部長である真琴先輩と付き合い始めて早一年。初めてえっちしたのは付き合い始めて二ヶ月ぐらい経った頃だったように思う。
週末には当たり前の様にお家でだったり出かけ先のホテルだったりで、こんなに長い期間先輩とえっちしてないのは初めてのことだ。だから、今までは欲求不満になるなんてことは一度もなかった。私は欲求不満とか、そういうことにはならないであろうと思っていたのに、いざそうなってしまうとなんだか悪いことをしているような気がして常に体が緊張しているような気がする。最近眠りが浅いのはそのせいかもしれない。
先輩、私に飽きちゃったのかな。
そんな不安に駆られることも少なくない。
先輩とは毎日部活で会っているし、二人きりになった際にはちょこちょこ甘い言葉をくれるので、そんなことはないと思っているのだが。
それに、ここ一ヶ月先輩とえっち出来てないのはたまたまお互い都合が悪かったりしたからだ。テストがあったり、大会があったり、私が女の子の日だったりで、ことごとくそういう機会を逃してしまっていた。だからきっと、先輩は手を出してこなかったのだ。あの人はそういう面に対しては聡くて、よく気を回してくれるから。
「……はぁ」
「悩める乙女だね〜」
「もう、花ちゃんってば」
花ちゃんのからかいを含んだ視線から逃げるように、私はまた両腕の中に顔を埋めた。もう、勘弁して欲しい。恥ずかしくてたまらない。
「そんなに不安ならさ、たまには江から誘ってみたらいいんじゃない?」
「……そう簡単にいくものじゃないよ」
「そうかなあ?好きな女の子から誘われたら、彼氏としてはうれしいと思うけど」
「はしたない子だって、思われないかな……」
「大丈夫だって!それに、江だって、求められたらうれしいでしょう?好きな人に求められたら、誰だってうれしいじゃん」
「そうだけどさあ……う〜ん」
窓の外へ視線を投げる。空は突き抜けるように青く澄んでいた。脳にかかった濃く白い靄を吹き飛ばしてしまう程に。
◆
「んっ、はぁ……っあ、」
真琴先輩の指とは正反対な細くて白い私の指先がねっとりと蜜を纏ったクリを撫で回す。いいこいいこ、先輩はきっと江のこと好きだよ。そう、自分を慰める。
今まで一人ですることなんて一度もなかった。考えたことすらなかった。けれど、溜まりに溜まった欲求はもう一人でする一択しか選択肢を寄越さず、ベッドに入った私は気付いたら自分の体を弄っていた。
脳裏に先輩の甘い声や汗の香り、溶けちゃいそうな程熱い指先の感触や舌の感触を思い出して指先の速度を速める。指の速度と比例して呼吸の回数も増え、腰がビクビクと震え始めた。
「あ、んんっ、まこ、せんぱ……ひゃうっ……っ!」
彼の名前を呼ぶと、まるで先輩に抱かれている時のような快感が全身を駆け抜けた。しかしそれは一瞬ことで。
はふはふと荒い息を整えながら、休息に訪れる寂しさと虚しさに瞳から涙が溢れてくる。所詮は一人えっち。自慰。自分を慰める行為なのだ。いつもなら絶頂を迎えると、先輩は私を押しつぶす様にあの汗ばんだ大きな体を倒れ込み、やさしく抱きしめながら私の頭を撫でてくれる。そして、好きだよって掠れた声で囁いてくれるのだ。
でも、その先輩はここにいなくて。私一人だけで。
一人で気持ち良くなったって、先輩がいなければ寂しさが増すだけだとよくわかった。
「……ふ、ぐすっ……先輩に、メールしよ……」
枕元に充電器の刺さったままの携帯をたぐり寄せる。
慣れた手つきでポチポチとキーを操作し、受信ボックスの一番上にある先輩のメールから返信メールを作成する。
『明日の昼休み、一緒に屋上でご飯食べませんか?』
うん、よし。えっち云々抜きにして、とにかく先輩と二人きりになって彼と触れ合いたかった。この寂しさを埋めて欲しかった。
だから今はこれで良い。
送信ボタンを押す。先輩、寝ちゃったかなあ。返信、来るといいなあ。
パチ、パチパチ。瞬きの回数が増える。眠たい。でも、先輩からの返信、待たなきゃ。
えっちなことをすると、眠たくなっちゃうのは二人でも一人でも一緒なのか。
そろりと落ちて来た瞼に逆らえず、私は駄目だと思いながらも夢の中へと引きずり込まれてしまう。引き込まれる寸前に、耳元で携帯が鳴っている音を聞いた気がした。
明日の朝、確認しよう。
◆
今にもスキップし出しそうな軽い足取りで私は屋上へと向かう。
昨夜耳元で聞いた着信音は間違いではなかったらしく、真琴先輩からの返信であった。ドキドキしながらメールを開いてみると、了承の言葉と楽しみだと書かれていた。単純だなあとは思うが、私の気分は晴れやかになり、素晴らしい一日の始まりとなったのだ。
ギシリと重たい音を立てながら屋上の鉄の扉を開ける。屋上は人っ子一人いない。先輩はまだ来ていないようだ。
「江ちゃん」
不意に先輩の声が耳元にかかり、ビクゥッと驚きに肩を飛び跳ねさせる。
「ま、真琴先輩!驚かさないでくださいよ!」
「はは、ごめんごめん。そんなに驚くとは思ってなかったんだ。お誘い、ありがとう。メールうれしかったよ」
花が舞っているようなほんわかした雰囲気で笑いながら、私が抑えていた重たい扉を先輩が変わって抑えてくれる。とくり、と胸がときめきに音を立てた。
先輩のやさしさに触れる度に好きになる。好きが増える度に、肌に触れて欲しくなる。恋をすれば欲張りとはよく言ったものだ。私、前はこんなに欲張りじゃなかったのに。
「真琴先輩のせいだ」
「ん?江ちゃん何か言った?」
「いえっ!先輩、早くご飯食べましょ!私お腹ぺこぺこです」
「はいはい」
先輩の腕を引き、壁際を背に二人は座り込んだ。
手を合わせ、ふたり揃って「いただきます」をする。こうやって昼休みに二人きりでご飯を食べるのはとても久しぶりだった。大概、私たち以外に水泳部のみんながいることが多いから。
他愛もない世間話をしたり、水泳部のメニューや合同練習についてなど話をしているうちに真琴先輩が食べ終わり、しばらくして私も食べ終わる。
お弁当箱を片しながら、私はどうしようかと悩んだ。
誘って、みようかな。自分から。それとこれとでは違うけれど、今日だって誘ったことうれしいって言ってくれたし。私と違って先輩は男の子だから、私より欲求不満になりやすいだろうから先輩だってそういうことしたいだろうし。
「どうしたの、難しい顔して」
春の日差しのようにやわらかい微笑みを携えて先輩は聞く。
そこで私は気付く。これは、もしや。
「……先輩、狡いです」
「何のこと?」
にっこりと先輩は笑みを深めた。
ほら、やっぱり。こういう表情をする時の先輩は確信犯なのだ。私が言葉に出し難いことを無理矢理引き出す術。
でも、確かに先輩のその術にかかるおかげで私は言い難い言葉も先輩に言えるのだけれど、やっぱりなんだか悔しくなってしまう。悔しいし、今から言うことは、ちょっと恥ずかしい。
ほら、と先輩が急かす声を出すから、私は泣きそうになりながら、先輩を上目で見つめ腹を括ることにする。
「甘えてもいいですか?」
恥ずかしくて、顔が熱くて、泳げもしないのに今すぐプールに飛び込んでしまいたい。それでも私の決意を揺らがしたくなくて、私は逸らしたくてたまらない視線をなんとか先輩の瞳に固定した。
先輩は一度新緑の瞳を大きく丸め、ゆっくりと目を細めた。
「……おいで」
先輩は手に持っていたお弁当箱を膝の横に避けて、両手を広げてみせた。ああ、言ってよかった。これでやっと先輩に触れられる。
私はその広い腕の中に飛び込んだ。先輩の腕が私をきちんと抱きとめて、頭を撫でられる。涙が出そうな程うれしい。触れたい衝動に悶々と悩まされ、緊張し続けていた体がやっと一息を吐くように落ち着く。
「ずっと、先輩に触りたくてたまりませんでした」
思わず口から勝手にボロリと本音が溢れた。
「触りたくて、先輩に触られたくて……その、最近ずっとそういうこともなかったから……」
背に回る先輩の腕がキツくなる。私も負けじと先輩の首の後ろに腕をまわした。先輩の体も、私の体もたまらなく熱い。
「俺も。ずっと江ちゃんに触れたかったよ。もちろん、こういうことしたかった」
「せんぱ……ひゃあっ!」
ふうっ、と先輩の熱い吐息がわざとらしく私の耳に吹き込まれる。突然のことに体は何も準備をしていなくてビクビクと身を震わせながら情事中のような甘ったるい声を漏らしてしまった。ここは屋上だというのに。
先輩は私の脇の下に手を差し入れ、抱き上げたかと思えば私を後ろから抱きかかえる体勢に変えた。
「江ちゃんもこういうことしたかっただなんて。とってもうれしい……我慢した甲斐があったな」
「ひゃ、あっ!せんぱ、耳、なめちゃ、やっ……」
息を吹き込まれたかと思えば先輩は耳の穴に熱い舌を入れてきた。ぴちゃぴちゃとやらしい水音がダイレクトに耳を刺激し、肩を竦める。腰が痺れて、下腹部を濡らしてしまう。
駄目って言いながら一ヶ月我慢し続けた体は正直で、本当はうれしくて気持ち良くて仕方がないのに。口だけはどうにもなかなか素直になってくれない。
「嫌じゃないだろ?ここ、もう濡れてるんじゃないの?」
「ふ、あっ!」
「ほら、やっぱり。江ちゃんの下着、ぐしょぐしょになってるよ」
スカートの中に先輩の無骨な手が入り込み、下着の上からそこを意味深になぞる。こしこしとそこを擦られ、痒いぐらいの疼きに生理的な涙がこぼれる。
一人でしてしまう程欲していた先輩の指が、私のあそこを触っているという現実に喜びで体が震え上がる。もう既にイってしまいそうだ。
「ひゃあっ、せんぱいっ!あんっ、うぁ、直接、さわって、」
「いい子。もっと俺が欲しいって言って」
クロッチの隙間から直接先輩の指が挿入され、溢れた蜜を絡めてクリを弄くる。ビリビリとした快楽に足先を丸めて私は絶頂を迎えた。
「あっ、んあっ、せんぱい、気持ち、あ、もっと、もっと欲しいのっ」
「うん、何が欲しいの?言ってごらん?」
中に指が入れられ、ほぐすようにかき混ぜたかと思えば間接を折り曲げ、私の良い所を刺激してくる。そこを弄っていない反対の手はいつの間に外したのか、中間部分だけボタンの外されたブラウスから胸を揉む。ブラジャーを下にずらし、ぷっくりと勃ちあがってしまった乳首を指の腹で擦ったり摘んだり弾いたりして先輩はまるで手遊びするようにそこを弄くり回した。
ここが屋上だとか、もう昼休みが終わりそうだとかそんなことはもうどこかにぶっ飛んでしまって、ただひたすら与えられる快楽に体をくねらせた。
「あ、う、先輩の!ひゃうっ……先輩のが欲しいのっ」
「俺の、何が欲しいの?ほら、言って」
有無を言わせぬ先輩の声は酷く熱を孕んでいる。先輩も、きっと、早く私と繋がりたいのだ。私のお尻に当たる先輩の主張したそれを急に意識が向く。
恥ずかしい。恥ずかしいから、言いたくない。でも先輩のこれが、早く欲しい。
「ううっ、先輩の意地悪っ!ふあっ、あ、せんぱ、のこれ!これが欲しいの、も、我慢出来ないから、はやくっ」
先輩のそれをズボン越しに触れ、先輩を振り向きながら懇願するとやっと許しがおりたのか先輩は微笑んだ。
「いいよ。あげ」
キーンコーンカーンコーンッ。
「…………」
「…………」
甘いねっとりとした空気を引き裂くように流れるチャイムが二人を現実へと引き戻した。昼休み終了のその合図。
どう、しよう。
先輩の指が入ったままのそこはひくひくと先輩のモノを待ち構えている。動きの止まった指を早く早くと締め付け、おねだり。
「江ちゃん、ごめん。次の授業サボろっか」
「も、そんなのいいから、早くしてください……」
「……全く、そんなに俺を誘惑してどうしたいの?」
――覚悟してよ。
あそこの入り口に当たる先端の濡れた先輩のそれに、私はもう先輩のことしか考えられなくて、ただひたすら頷き、次にくる快楽に身構えた。
140112
自由形3にて無料配布させていただきました。
「はぁ」
昼休み。
机に突っ伏して甘ったるい桃色の吐息を吐き出す。
「欲求不満だねえ」
両腕に埋めていた顔を少しあげ、学生とは思わえぬ発言をする我が友人へとそろりと視線をやった。
「……恥ずかしいからそういう風に言わないで、花ちゃん」
ジト目で私が嘆きの声を漏らせば、花ちゃんはくすくすと身を震わせながら笑った。我が友人ながら可愛らしい笑顔だけれど、会話が会話なので何とも言えぬ気持ちになる。
「じゃあ何て言えばいいの?」
「…………欲求不満で良いです」
「素直でよろしい」
にっこりと花ちゃんは満面の笑顔を浮かべた。私がこんなに苦しんでいるっていうのに、なんでそんなに笑顔なんだろう。もう。
白い靄がかかった悶々とする脳内に、私はここ二週間苦しめられていた。理由は明確で、花ちゃんが申し上げた通り、私は欲求不満なのだ。
岩鳶水泳部部長である真琴先輩と付き合い始めて早一年。初めてえっちしたのは付き合い始めて二ヶ月ぐらい経った頃だったように思う。
週末には当たり前の様にお家でだったり出かけ先のホテルだったりで、こんなに長い期間先輩とえっちしてないのは初めてのことだ。だから、今までは欲求不満になるなんてことは一度もなかった。私は欲求不満とか、そういうことにはならないであろうと思っていたのに、いざそうなってしまうとなんだか悪いことをしているような気がして常に体が緊張しているような気がする。最近眠りが浅いのはそのせいかもしれない。
先輩、私に飽きちゃったのかな。
そんな不安に駆られることも少なくない。
先輩とは毎日部活で会っているし、二人きりになった際にはちょこちょこ甘い言葉をくれるので、そんなことはないと思っているのだが。
それに、ここ一ヶ月先輩とえっち出来てないのはたまたまお互い都合が悪かったりしたからだ。テストがあったり、大会があったり、私が女の子の日だったりで、ことごとくそういう機会を逃してしまっていた。だからきっと、先輩は手を出してこなかったのだ。あの人はそういう面に対しては聡くて、よく気を回してくれるから。
「……はぁ」
「悩める乙女だね〜」
「もう、花ちゃんってば」
花ちゃんのからかいを含んだ視線から逃げるように、私はまた両腕の中に顔を埋めた。もう、勘弁して欲しい。恥ずかしくてたまらない。
「そんなに不安ならさ、たまには江から誘ってみたらいいんじゃない?」
「……そう簡単にいくものじゃないよ」
「そうかなあ?好きな女の子から誘われたら、彼氏としてはうれしいと思うけど」
「はしたない子だって、思われないかな……」
「大丈夫だって!それに、江だって、求められたらうれしいでしょう?好きな人に求められたら、誰だってうれしいじゃん」
「そうだけどさあ……う〜ん」
窓の外へ視線を投げる。空は突き抜けるように青く澄んでいた。脳にかかった濃く白い靄を吹き飛ばしてしまう程に。
◆
「んっ、はぁ……っあ、」
真琴先輩の指とは正反対な細くて白い私の指先がねっとりと蜜を纏ったクリを撫で回す。いいこいいこ、先輩はきっと江のこと好きだよ。そう、自分を慰める。
今まで一人ですることなんて一度もなかった。考えたことすらなかった。けれど、溜まりに溜まった欲求はもう一人でする一択しか選択肢を寄越さず、ベッドに入った私は気付いたら自分の体を弄っていた。
脳裏に先輩の甘い声や汗の香り、溶けちゃいそうな程熱い指先の感触や舌の感触を思い出して指先の速度を速める。指の速度と比例して呼吸の回数も増え、腰がビクビクと震え始めた。
「あ、んんっ、まこ、せんぱ……ひゃうっ……っ!」
彼の名前を呼ぶと、まるで先輩に抱かれている時のような快感が全身を駆け抜けた。しかしそれは一瞬ことで。
はふはふと荒い息を整えながら、休息に訪れる寂しさと虚しさに瞳から涙が溢れてくる。所詮は一人えっち。自慰。自分を慰める行為なのだ。いつもなら絶頂を迎えると、先輩は私を押しつぶす様にあの汗ばんだ大きな体を倒れ込み、やさしく抱きしめながら私の頭を撫でてくれる。そして、好きだよって掠れた声で囁いてくれるのだ。
でも、その先輩はここにいなくて。私一人だけで。
一人で気持ち良くなったって、先輩がいなければ寂しさが増すだけだとよくわかった。
「……ふ、ぐすっ……先輩に、メールしよ……」
枕元に充電器の刺さったままの携帯をたぐり寄せる。
慣れた手つきでポチポチとキーを操作し、受信ボックスの一番上にある先輩のメールから返信メールを作成する。
『明日の昼休み、一緒に屋上でご飯食べませんか?』
うん、よし。えっち云々抜きにして、とにかく先輩と二人きりになって彼と触れ合いたかった。この寂しさを埋めて欲しかった。
だから今はこれで良い。
送信ボタンを押す。先輩、寝ちゃったかなあ。返信、来るといいなあ。
パチ、パチパチ。瞬きの回数が増える。眠たい。でも、先輩からの返信、待たなきゃ。
えっちなことをすると、眠たくなっちゃうのは二人でも一人でも一緒なのか。
そろりと落ちて来た瞼に逆らえず、私は駄目だと思いながらも夢の中へと引きずり込まれてしまう。引き込まれる寸前に、耳元で携帯が鳴っている音を聞いた気がした。
明日の朝、確認しよう。
◆
今にもスキップし出しそうな軽い足取りで私は屋上へと向かう。
昨夜耳元で聞いた着信音は間違いではなかったらしく、真琴先輩からの返信であった。ドキドキしながらメールを開いてみると、了承の言葉と楽しみだと書かれていた。単純だなあとは思うが、私の気分は晴れやかになり、素晴らしい一日の始まりとなったのだ。
ギシリと重たい音を立てながら屋上の鉄の扉を開ける。屋上は人っ子一人いない。先輩はまだ来ていないようだ。
「江ちゃん」
不意に先輩の声が耳元にかかり、ビクゥッと驚きに肩を飛び跳ねさせる。
「ま、真琴先輩!驚かさないでくださいよ!」
「はは、ごめんごめん。そんなに驚くとは思ってなかったんだ。お誘い、ありがとう。メールうれしかったよ」
花が舞っているようなほんわかした雰囲気で笑いながら、私が抑えていた重たい扉を先輩が変わって抑えてくれる。とくり、と胸がときめきに音を立てた。
先輩のやさしさに触れる度に好きになる。好きが増える度に、肌に触れて欲しくなる。恋をすれば欲張りとはよく言ったものだ。私、前はこんなに欲張りじゃなかったのに。
「真琴先輩のせいだ」
「ん?江ちゃん何か言った?」
「いえっ!先輩、早くご飯食べましょ!私お腹ぺこぺこです」
「はいはい」
先輩の腕を引き、壁際を背に二人は座り込んだ。
手を合わせ、ふたり揃って「いただきます」をする。こうやって昼休みに二人きりでご飯を食べるのはとても久しぶりだった。大概、私たち以外に水泳部のみんながいることが多いから。
他愛もない世間話をしたり、水泳部のメニューや合同練習についてなど話をしているうちに真琴先輩が食べ終わり、しばらくして私も食べ終わる。
お弁当箱を片しながら、私はどうしようかと悩んだ。
誘って、みようかな。自分から。それとこれとでは違うけれど、今日だって誘ったことうれしいって言ってくれたし。私と違って先輩は男の子だから、私より欲求不満になりやすいだろうから先輩だってそういうことしたいだろうし。
「どうしたの、難しい顔して」
春の日差しのようにやわらかい微笑みを携えて先輩は聞く。
そこで私は気付く。これは、もしや。
「……先輩、狡いです」
「何のこと?」
にっこりと先輩は笑みを深めた。
ほら、やっぱり。こういう表情をする時の先輩は確信犯なのだ。私が言葉に出し難いことを無理矢理引き出す術。
でも、確かに先輩のその術にかかるおかげで私は言い難い言葉も先輩に言えるのだけれど、やっぱりなんだか悔しくなってしまう。悔しいし、今から言うことは、ちょっと恥ずかしい。
ほら、と先輩が急かす声を出すから、私は泣きそうになりながら、先輩を上目で見つめ腹を括ることにする。
「甘えてもいいですか?」
恥ずかしくて、顔が熱くて、泳げもしないのに今すぐプールに飛び込んでしまいたい。それでも私の決意を揺らがしたくなくて、私は逸らしたくてたまらない視線をなんとか先輩の瞳に固定した。
先輩は一度新緑の瞳を大きく丸め、ゆっくりと目を細めた。
「……おいで」
先輩は手に持っていたお弁当箱を膝の横に避けて、両手を広げてみせた。ああ、言ってよかった。これでやっと先輩に触れられる。
私はその広い腕の中に飛び込んだ。先輩の腕が私をきちんと抱きとめて、頭を撫でられる。涙が出そうな程うれしい。触れたい衝動に悶々と悩まされ、緊張し続けていた体がやっと一息を吐くように落ち着く。
「ずっと、先輩に触りたくてたまりませんでした」
思わず口から勝手にボロリと本音が溢れた。
「触りたくて、先輩に触られたくて……その、最近ずっとそういうこともなかったから……」
背に回る先輩の腕がキツくなる。私も負けじと先輩の首の後ろに腕をまわした。先輩の体も、私の体もたまらなく熱い。
「俺も。ずっと江ちゃんに触れたかったよ。もちろん、こういうことしたかった」
「せんぱ……ひゃあっ!」
ふうっ、と先輩の熱い吐息がわざとらしく私の耳に吹き込まれる。突然のことに体は何も準備をしていなくてビクビクと身を震わせながら情事中のような甘ったるい声を漏らしてしまった。ここは屋上だというのに。
先輩は私の脇の下に手を差し入れ、抱き上げたかと思えば私を後ろから抱きかかえる体勢に変えた。
「江ちゃんもこういうことしたかっただなんて。とってもうれしい……我慢した甲斐があったな」
「ひゃ、あっ!せんぱ、耳、なめちゃ、やっ……」
息を吹き込まれたかと思えば先輩は耳の穴に熱い舌を入れてきた。ぴちゃぴちゃとやらしい水音がダイレクトに耳を刺激し、肩を竦める。腰が痺れて、下腹部を濡らしてしまう。
駄目って言いながら一ヶ月我慢し続けた体は正直で、本当はうれしくて気持ち良くて仕方がないのに。口だけはどうにもなかなか素直になってくれない。
「嫌じゃないだろ?ここ、もう濡れてるんじゃないの?」
「ふ、あっ!」
「ほら、やっぱり。江ちゃんの下着、ぐしょぐしょになってるよ」
スカートの中に先輩の無骨な手が入り込み、下着の上からそこを意味深になぞる。こしこしとそこを擦られ、痒いぐらいの疼きに生理的な涙がこぼれる。
一人でしてしまう程欲していた先輩の指が、私のあそこを触っているという現実に喜びで体が震え上がる。もう既にイってしまいそうだ。
「ひゃあっ、せんぱいっ!あんっ、うぁ、直接、さわって、」
「いい子。もっと俺が欲しいって言って」
クロッチの隙間から直接先輩の指が挿入され、溢れた蜜を絡めてクリを弄くる。ビリビリとした快楽に足先を丸めて私は絶頂を迎えた。
「あっ、んあっ、せんぱい、気持ち、あ、もっと、もっと欲しいのっ」
「うん、何が欲しいの?言ってごらん?」
中に指が入れられ、ほぐすようにかき混ぜたかと思えば間接を折り曲げ、私の良い所を刺激してくる。そこを弄っていない反対の手はいつの間に外したのか、中間部分だけボタンの外されたブラウスから胸を揉む。ブラジャーを下にずらし、ぷっくりと勃ちあがってしまった乳首を指の腹で擦ったり摘んだり弾いたりして先輩はまるで手遊びするようにそこを弄くり回した。
ここが屋上だとか、もう昼休みが終わりそうだとかそんなことはもうどこかにぶっ飛んでしまって、ただひたすら与えられる快楽に体をくねらせた。
「あ、う、先輩の!ひゃうっ……先輩のが欲しいのっ」
「俺の、何が欲しいの?ほら、言って」
有無を言わせぬ先輩の声は酷く熱を孕んでいる。先輩も、きっと、早く私と繋がりたいのだ。私のお尻に当たる先輩の主張したそれを急に意識が向く。
恥ずかしい。恥ずかしいから、言いたくない。でも先輩のこれが、早く欲しい。
「ううっ、先輩の意地悪っ!ふあっ、あ、せんぱ、のこれ!これが欲しいの、も、我慢出来ないから、はやくっ」
先輩のそれをズボン越しに触れ、先輩を振り向きながら懇願するとやっと許しがおりたのか先輩は微笑んだ。
「いいよ。あげ」
キーンコーンカーンコーンッ。
「…………」
「…………」
甘いねっとりとした空気を引き裂くように流れるチャイムが二人を現実へと引き戻した。昼休み終了のその合図。
どう、しよう。
先輩の指が入ったままのそこはひくひくと先輩のモノを待ち構えている。動きの止まった指を早く早くと締め付け、おねだり。
「江ちゃん、ごめん。次の授業サボろっか」
「も、そんなのいいから、早くしてください……」
「……全く、そんなに俺を誘惑してどうしたいの?」
――覚悟してよ。
あそこの入り口に当たる先端の濡れた先輩のそれに、私はもう先輩のことしか考えられなくて、ただひたすら頷き、次にくる快楽に身構えた。
140112
自由形3にて無料配布させていただきました。