03
頼み、というのは"監視"であった。
偶然会津に戻ってきていた容保公が直々に命を下すくらいなので、相当重要なものだと認識させる。
千凪は訝し気に眉を顰める。

「このたび幕府が浪士組を発足なさる。それを集めるのが清河八郎という男に任されたのだが…」

そこまで言うと容保公は口を閉じた。

「清河八郎というものに問題でも?」

「あー…、なんというか…こちらで独自に調べたところだな…」

容保公は声をひそめて言った。

「あの男、勤王派なのだ」

「…それを幕府は知らない、と」

「しかし、根っからの佐幕の者もおってな。それが、試衛館という道場の門人たちと、水戸天狗党を名乗るものらでな」

「いや、天狗党って勤王じゃないですか。桜田門外の変とか起こしてますし」

「それがな、長の弟だか親戚が、我が藩にいるそうでな」

容保公は頭を掻き言った。
その風貌はどうみても眉目秀麗の柔なお殿様ではなかったが。

「承知奉りましたが、とりあえずは江戸へ参れば良いのですね?」

千凪は尋ねた。
すでに小花は別邸へ戻り支度をしているだろう。

「江戸まではこちらのものに送らせよう。そこからは単独で動いてもらうが構わんな?」

「嫌ということもできないのですから聞くことありませんでしょうに」

千凪はニヤリと笑うと立ち上がった。
会津から出るだけでも面白そうだというのに、江戸…京都まで行けるのだから、見聞するのもいいだろう。
そもそも千凪は会津から出たかった。母親がいる限り、会津にいたくはなかったのだ。

(どうせ、私が死んでもあいつらがいる…大丈夫、むしろ好都合だ)

千凪はせつなげに顔を歪めた。その顔は誰も見ていなかった。

「それでは頼むぞ」

「御意」

千凪は振り返り際に不敵な笑みを見せた。
ピタン、と音がして襖が閉まる。
容保公は眉をひそめた。

「これであの子も少し丸くなってくれれば良いが…」

「凪姫さまなら大丈夫でしょう」

傍にいた家老が答える。

「いや、あいつはああ見えて弱いからな…」

そのまま空を見た。

「そのまま浪士組にいてもらおうと思っておる。会津にいては…母君の重圧に耐えきれんだろうしなぁ」

「それを伝えぬのも酷だとは思いまするがな…」

この時の家老の心配は見事に的中するのだが、それはもうすこしあとのお話。

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