「ようやく目が覚めたかな?」
見知らぬ青年が声をかけた。
桜夜はびくっ、と身じろぎをして布団をぎゅっと握りしめた。
「だ…だれ?!!」
「まずは君が名乗るのが筋だよね?」
青年は意地悪な笑みを浮かべ、そう言った。
「さ…さく、や。こう…づき…香月桜夜…」
「桜夜…ね。まあそこにいなよ。みんな呼んでくるからさ」
桜夜はおどおどと名前を名乗り、顔を背けた。
(僕は…なにをしてたんだ?!そもそも僕は誰?香月桜夜…米沢藩から出てきた…それぐらいしか…思い出せない!!)
桜夜はぼうっと周りを見渡す。
窓の外で小鳥が鳴いていた。もう春である。
(僕が米沢から出たのは…雪が降ってた頃だよね?…もう、春なの?!)
桜夜はオロオロし始める。
そしてそこにあった刀を手に取り、ぎゅっと胸に押し付けた。
桜夜は不安でいっぱいだったのだ。
「う…っく、ぼ…くは……!」
その時、隙間が開き、先ほどの青年が戻ってくる。
手には盆を持っていた。
「あれ?泣いてるの?」
笑顔を浮かべて尋ねる青年。
桜夜はそれを睨みつけた。
「あ…っと、ごめん。…これ、ご飯だから。良かったら食べなよ」
「………」
「えっと…さく、や、ちゃん?」
「……名前、教えてよ」
青年は忘れていたらしく、はっとすると盆を置き、名前を名乗った。
「僕は沖田総司。ここの道場の一番弟子さ」
「沖田…」
桜夜は反芻するようにその名を呟く。
すると、襖がガラガラっと音を立てて倒れ、上には何人もの人が重なり倒れていた。
「…なぁにやってんの?」
沖田が呆れて言った。
「いやぁ…なんかさ、気になって」
「すまねぇな、新八がどーしてもっ!って言うからよぉ」
「な、左之!おめえ、卑怯だぞっ!!!」
桜夜は眉をひそめた。
「だれ…?」
すると三人は笑い声をあげ、あぐらをかいて座った。
「すまねぇな!おらぁ、原田左之助。こっちの筋肉が永倉新八で、ちっこいのが藤堂平助だ」
「筋肉ってどういうことだ、左之!!」
「そーだよ左之さん!!ちっこいのってなんだよぉ!!」
二人が言い争いを始める。
沖田は肩を竦めて、桜夜に笑いかけた。
と、そこにまたしても人が三人現れる。
一人は黒髪を一つにまとめた青年。一人は眼鏡をかけた温厚そうな青年。一人は…
「あ、近藤さん!」
沖田が嬉しそうな声をあげた。
「いやぁ、良かった良かった。随分と元気になったじゃないか!」
近藤がにこにこと笑って話しかけた。
「確かに、昨日は死んだみてぇだったからな」
黒髪の青年がそうつぶやいた。
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