流石にあの場所においていくことはできなかったからである。
少女の刀を傍にさし、暗い夜道をなるべく小走りで歩いて行った。
*
「ただいま」
「おう、総司!酒は買ってきたか!」
永倉新八が顔を真っ赤にして玄関へ出てきた。
そして沖田が手ぶらでありなおかつ背に見知らぬ少女を背負っているのを見て、顔をしかめた。
「おいおい、総司!お前…なぁに拾ってきてんだ?!」
「…いいから新八さん、近藤さん呼んできてよ」
「しょーがねえな、かわいこちゃんが可哀想だからいっちょ呼んできてやっか!」
新八は頭を掻きながら立ち上がり、部屋の奥へ向かって
「おーい、近藤さーん!ちょっときてくれ!」
と叫んだ。
その声を聞いた近藤勇を始め、土方歳三、藤堂平助、原田左之助、山南敬助が玄関口へ出てきた。
そして、沖田の背を見ると驚きを隠せないような顔をした。
「おい、総司…。お前、なに拾ってきてやがんだよ」
「まあまあ、トシ!総司はいたいけな女の子をこんな夜道に放っておけなかったんだろう」
土方の呆れた声、それをたしなめる近藤。いつも通りである。
「まあ、とりあえず…」
山南がその温厚な口調で口を挟んだ。
「その少女を下ろしてあげましょうか」
その時、背中に乗せられていた少女が身じろぎをして、「うぅ…」と呻き声をあげた。
沖田はあわててその少女を空き部屋に連れて行った。
「それでは土方君はお湯を持ってきていただきませんか?それと藤堂君は布を…原田君はお隣のお時さんから着物を借りてきていただきましょうか」
後ろでテキパキと指示を出す山南。
沖田は少女を布団にそっと寝かせると、山南の元へと向かった。
「山南さん、僕はなにをしようか」
「沖田君は彼女についていてあげてください」
「…わかりました」
沖田は部屋に戻ると、布団のそばにドカッとあぐらをかいて座った。
そして思い出したかのように刀を傍からとり、そばにおいた。
「これは…彼女の刀なのか?」
近藤が沖田のそばに寄り、声をかけた。
「ええ、そのようです。結構重いんですけど…なんなく振り回してる」
「確かに…この腕ではそう見えるな。でも、よく見て見ると必要最低限の筋肉はついている」
「なるほど…」
「おい、総司。お湯持ってきたぞ」
土方が桶に入ったお湯を枕元におく。
そして沖田が手にしている刀を見て、目を見開いた。
「おい…これ、有名な刀じゃねえか!!」
「そんなに凄いのか?」
「ああ、なんでもそのまた昔、鬼退治をした源頼光の残した四刀の刀があってだな…その一振りに似てる気がするんだ」
「へぇ…でも、土方さんは刀とか目利ききかないですよね…?」
「これは本物ですよ」
山南が白湯を持って部屋へ入ってきた。
沖田は少しよけると、山南は会釈をしてそこに座った。
「この銘…まさしく鬼斬りの一つでしょう。…しかし、なぜこのような少女が…」
藤堂が少女の振袖をそっと摘み見ると、口を開いた。
「そりゃそんなの持ってて当たり前かもよ?この子の着物、随分汚れててわかんないかもしんないけど、すっごくいいやつだし」
「…事情はあとで聞くとして、とりあえず傷の手当はしてやらねえとな」
原田が着物を片手に言った。
その後ろにはお隣の娘さんが立っている。
「おや、お夏さん…どうしました?」
「まっさかあなたたち、女の子の手当を自分たちでしようとしてたのかしら?そんなこと、このお夏が許しませんよ?」
さあどいたどいた…と言わんばかりに手をしっしっと払うと、お夏は少女の傍に座り、手当を始めた。
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