目的地へ到着するなり持たされた竹刀をどう解釈すればいいのだろうか。目の前で同じく竹刀を持って微笑んでいる沖田と、その後ろで静かに正座している男のことも。

「あの……近藤さん……?」
「君には今から総司と打ち合ってもらう」
「はあ!?」
「よろしくお願いしますね」

いくら何でもそれは無謀というもの。新選組内でも指折りの剣客相手にどうしろというのか。打ち合え、とは何とも恐ろしい一言だ。

口角を上げて今か今かと落ち着かない様子の沖田には、断るだけ無駄だと思い知らされる。普段通り構え、相手を見据えた。

「……綺麗な型だ、迷いがねぇ」

やはり只者ではないと土方は悟る。

「始め!」

掛け声と共に駆け出すような真似は二人共しなかった。相手が相手なだけにリンは動けないが、沖田はそうでもないだろうに。こちらの出方を見ているのか。

「どうしました、かかってこないのですか?」
「格上相手に真正面から向かっていくほど馬鹿じゃないんで」
「食えない人ですね……」

微笑みを絶やすことなく、どこまでも余裕の沖田がリンには新鮮だった。中学剣道界で最強と謳われていた者が、こんな状況に陥ることはまずないだろう。誰もがその強さに圧倒され、一時たりとも気が抜けない。そんな立場にリンはいたのだ。しかし、目の前にいるのはあの沖田総司。兵揃いの新選組で若くして一番組頭を名乗るのだ、本気でなくとも強いのは当たり前。

「では……こちらから行きますよ!」

打ち込まれた沖田の剣は鋭く重かった。弾き返し一太刀を浴びせにかかるが、簡単にかわされてしまう。

いつもとは違う竹刀の感触、ただならぬ威圧感、張り詰められた緊張の糸。その全てがリンの『感覚』を呼び覚ます。忘れていた……あの頃の、剣道を楽しんでいた頃の感覚が。

「すげぇな、あいつ……!」
「総司相手にここまでやるとは……」
「あいつが勝つんじゃないかな! 総司の奴押されてやんの!」

攻めていくリンに対し、押され気味の沖田。しかしその表情が余裕を消すことはない。瞬きしていては見逃しかねない打ち合いを、隊士達は食い入るように見ていた。いつの間にやら見物人が増えていたようだ。

「君は一体何者なんです? ただの子供、では納得できない強さだ」
「ただの子供ですよ。ちょっと腕の立つ、ね」
「ちょっと? よく言…………っ!」

小手を取り竹刀を弾く。飛んだ竹刀は見物人達の方に向かう。やたらと筋肉質の男の頭を突いて床に転がった。

「ってぇな! 総司! しっかり竹刀握ってろよ!!」
「ごめんなさい、原田さん。貴方があれを避けられるくらい俊敏でないことは分かっていましたけど、気が抜けてしまったようで……」
「てめぇ、そりゃどういう意味だ!」

鼻先を竹刀が捉えているというのに、他の隊士と談笑する余裕まであるようだ。何故かそれが腹を煮えさせたようで竹刀を握る手に力が入る。防具を着けていない相手にこれ以上行ってはならないと理解してはいる。理解してはいるけれど、どうにも煮え切らなくて瞳に戦意を灯した。その瞬間、後ろに控えていた男がリンの手首を強く握った。

「……痛いんすけど」
「やめておけ。相手が相手なだけに本気になるのは分かるが、これ以上の打ち合いは無益だ」

男は土方を一瞥し、リンから手を離す。手首を擦っていると、周りに隊士が集まってきた。一気に囲まれてしまう。これも今までになかったこと。新鮮すぎて戸惑ってしまった。

「君、小さいのに総司君を圧倒するとはすごいよ」
「どうも……えっと……?」
「ああ、そうだったな。私は松原忠司、四番組頭をしているんだ」

よろしく、そう言って腰を屈める松原に、不思議と嫌な気はしなかった。小柄なリンにとってその行動は、小さいと言われているようなもの。実際、先程小さいと言われている。が、何故か腹は立たない。

「おいチビ助! お前、俺の子分にしてやってもいいぜ!」
「遠慮願います」
「平助の子分なんてなる奴いねぇよ」
「何だ、あんたが『チビ助』なんじゃないすか」

『平助』と『チビ助』をかけたらしい。墓穴を掘った藤堂は、怒りと羞恥で真っ赤になり隣りの男に突っかかっている。

「おおそうだ! 俺は原田左之助。十番組頭やってる。で、こっちのチビ助が藤堂平助、八番組頭な」
「左之! その紹介の仕方はおかしいだろ!」

騒がしい奴らだと耳を痛くしていると、本城に手招きされた。

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