土方の入っていった部屋。そこが局長室。泣く子も黙る狂犬集団……新選組の親玉の巣。悪く言えばそうなるか。長州勢は、恐らくこう思っているのだろう。
「どうした? 入りなさい」
ゆったりとした声音で呼びかけられ少し気が楽になる。だが、それはあくまで少しであった。量としても、時としても。
襖の中は、それはもう大層恐ろしい光景が広がっていた。近藤らしき人物と土方以外に二人、男女の姿がある。男は土方の隣りに、女は近藤の隣りに。それぞれ二人を挟むようにして座っている。
緊張が背筋を凍らせた。
「ふふ、そんなに緊張しなくてもいいのよ」
「確かに土方君の顔は恐ろしいけれど、他の者はそれほどでもないからね」
名も知らぬ二人はおかしそうに土方を見て笑った。居心地の悪さを感じてか、彼は咳払いを一つ、本題に入る。
「まず紹介しておく。ここにいる四名が新選組の司令塔だ」
言わずもがなと知れた局長の近藤勇。鬼の副長、土方歳三。対照的に天女と謳われる副長、本城雅琴(ほんじょう みやこ)。仏の総長、山南敬助。
残念ながらリンは日本史に疎いため、近藤土方沖田以外の隊士は全く知らなかった。事件に関しても池田屋や鳥羽伏見程度の知識で、誰がどうなったかなどは全く分からない。であるからして、ぼろを出さずに済むのは有り難い。
「僕は……堂リンと言います。昨日は助かりました、ありがとうございます」
「いいのよ、いいのよ。貴方が無事ならそれで。ね、勇さん?」
「そうだなぁ、これで一安心だ!」
「近藤さん、今はそこじゃねぇだろ」
豪快に笑っていたところを窘められると、顔を引き締めてリンへと視線を移す。その真剣な眼差しに自然と背筋も伸びた。
「堂リン君、君には行くところがないのだったな?」
「はい」
「だが、そう易々と屯所に居候させるわけにはいかない。それは分かるな?」
「……はい」
身元も分からないような者をおいそれと内に置けるほど新選組は甘くない。判断を見紛えば新選組にも幕府にも大きな影響が出るのだ。
「ついてきなさい。悪いようにはしないから安心してくれ」
そう言って満面の笑みを浮かべる近藤を目にし、肩の力が抜けていった。
「余程緊張していたのね。やっぱり土方君が怖いせいかしら」
「茶化すなよ本城さん」
こうして談笑するのは人間の証拠、か。一度戦場へと赴けば鬼神の如く刀を振るうというのに。
横を通り過ぎていく隊士に声をかけられる度、近藤は笑顔で返答していた。彼についていきたいと思う隊士の気持ちが少し分かった気がした。
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