「同い年くらいだから別に丁寧にしなくていいよ。様もいらない、リンでいい。僕もそうするからあんたもそうして」
「ふふ、そうね。改めまして、女中の霞夜です。今日一日、リンちゃんのお世話をさせてもらうわね、よろしく」
「ちゃん……?」
驚きを隠せないリンを不思議そうに見つめた後、当然といったふうに自信を持って耳打ちをした。
「女の子でしょ?」
何故だろうか。あの鬼の副長でさえ男と決めつけていたというのに。
悲しいかな、自分でも女らしさの欠片もないと思う。自分自身そう感じているのだから、他人は尚更だ。見た目やその振る舞い、言葉遣いから必ず男だと思われる。女だと断言されたのはこれが初めてのこと。
「……何で分かったの」
「女の勘かな」
ふふっと笑い、リンの手を取る。その愛らしい笑顔は、自分には到底できるものではない。少しそれが羨ましくもある。
「土方さん達は気付いてないみたいだけど、私の目は誤魔化せないんだから!」
「目敏いなぁ……まあ別に隠してるわけじゃないんだけどね。ただ、言って混乱されても困るし、さ」
土方は、言わば命の恩人。そんな彼が大切にしている新選組を混乱させるわけにはいかない。万が一ここに居座らせてもらえることになったら、女というだけで迷惑がかかる。
例えば、部屋の問題。平隊士は雑魚寝をしているが、リンが女だと知ればそんな中では寝させられない。他にも様々な問題が出てくるだろう。
「出ていけと言われるのも時間の問題だと思ってる。明日か……明後日か……それは分からないけど、ここにいる以上何か役に立つことがしたい。僕が女だと知って困るのは僕じゃない。あの人なんだ」
冷たく切り捨てたあの男が、もう一度目の前に現れ、今度は自分の手を取った。俺と来い、はっきりとそう言ってくれたのだ。一喝してから保護まで……その間に何があったかなんて知らない。それでも、その一言に満たされるものがあったから。
「僕は困らないけどあの人に負担がかかる。だから……」
「リンちゃんは優しいね」
「は……!? んなわけないだろ、僕は……」
「ううん、優しいよ」
私と違って。
そう聞こえた気がして、自分の耳を疑った。こんなに親切で笑顔の澄んだ少女が、優しくないはずがない。
「そうだ! お部屋に案内しないと、だね。行こっか!」
何かを紛らわすために気丈に振る舞っている。リンにはそんなふうに感じられた。その笑顔の裏に、一体何があるのだろう。
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