花火と君と、時々パスタ
太陽が隠れ、夏の暑さも引いてきた夕方過ぎ。
広いジャンルカ邸のそれまた広い庭に二つの人影が立っていた。
「なあ、マルコ?」
そのうち一つの人影が、口を開いた。ジャンルカだ。
「なにかな。ジャン。」
ジャンルカの問いにもう一つの人影が口を開く。クリクリの大きな目のマルコ。
「…なんで、俺達はこんなとこにこんな時間にいるんだ。」
「え? 何、ジャン。寝ぼけてるの? 俺達は今から花火するんでしょ。昼間にそう約束したじゃないか。」
「…違う。その約束は覚えている。だから、俺はなんで、俺の家の庭で、しかもたった二人で花火をするんだ、と聞いているんだっ!!」
ジャンルカはそんな余りにも寂し過ぎる状況にぶつける宛てのない怒りを宙にぶつけた。マルコはそんなジャンルカにやれやれとでも言うかのように首を振り、長方形の大きな袋を見せ諭すように口を再度口を開く。
「あのね、折角の夏休みだよ? 好きな人と二人っきりで花火をやりたいって思うのは14歳、思春期真っ盛りの俺達にとっては普通じゃないのかな。」
そしてこんな恥ずかしい事を大まじめに言うものだから流石のジャンルカも口ごもってしまった。
そりゃ、確かに、好きな人と二人で花火をやるのは夢だ。否定はしない。
だが、よりによってどうしてこんな身内がいるかもしれないという家の庭なのだ。そこはもっと公園とか学校とかそうゆう場所だろう!!!
しかし、今更こんな事を言ったって答えはたかがしれている。多分、マルコのことだから「え、だって1番ジャンの家が近いから…」等とムードのかけらもない事を言うのだろう。
ジャンルカはそう考え、一つ溜息をつき大人しく「わかった。」と呟いた。
「そうこなくちゃ。よし、じゃあ早速花火大会を始めよう!!」
「…相変わらずテンションが高いなあ、お前は。」
(こんなにまだ子供みたいな奴にムードなんて考えられるはずがないよな。)
ジャンルカは、そう一人乱暴に花火の入った袋をガザガサと開けているマルコを横目に見ながらははっ、と軽く笑った。
そしてバケツを取りに行こうとしたとき、マルコが不意にジャンルカの方向を向いた。
「そんなの当たり前だろ。」
「は?」
突然の事にジャンルカは驚き動かしかけた足をピタリと止め、マルコの方へ向き直った。
マルコの手元は火の点いた花火のお陰で綺麗な赤色に染まっている。
「折角ジャンと二人きりで花火が出来るんだから。」
一瞬、ドキンと心臓が跳ねたような気がした。
「張り切るに決まってるさ。」
「……マルコ…………」
と、同時にジャンルカの目にあるものがついた。
「靴、焼けてる。」
「…………へ? あぁあっ!!!」
マルコの布製の靴は見事花火の火により真っ黒な焦げ跡を残していた。
ジャンルカはそんな焦げ跡を見て、一回、ぷぷっと吹き出す。
「…ははっ…ははははっ、何、やってんだよ、マルコ。ははははっ!!!」
「なっ、酷いっ、笑うなよ、ジャン!! ……ははははっ ははははっ」
あんなに真剣な顔をするものだから、心臓が破けてしまいそうになったのに。
「ばっかだなあ、マルコは。」
「酷いよー… うわっ、ゴム臭いー……」
「はははっ」
あの時の赤色に
一瞬期待してしまったのに。
「よ、よしっ、じゃあ気を取り直して!! 続きでもいきますか!!!」
「ちょ、待てって、バケツ!! バケツだってば!!」
「マルコっ!!!」
やっぱり君にはまだまだムードは解らない。
End