何万回の愛してる
(松→半)
いつもの何もない、ただの平凡なお昼休み。今日も松野と半田は屋上に足を運び二人きりで昼食を取っていた。屋上は久しぶりに爽やかな春の風が吹きわたり、ここ最近の寒さが嘘のように思える。
「うーん、今日は、気持ちがいいなぁ、松野。」
半田は今日の天気を素直に気持ちがいいと受け止め、空めがけてうーん、と伸びを一つした。
「そうだねぇ、」
松野はそんな半田を微笑ましく見つめながら、お弁当箱の黄色い卵焼きを箸に挟んだ。口にほおりこむと甘い味が口の中に広がった。
半田も松野と同じように、お弁当箱に箸を入れ真っ赤なケチャップがかかった小さなハンバーグを口に運んだ。
「ははっ、こんなに天気がいいんじゃ円堂は喜ぶだろうな!」
「…え?」
半田が笑顔でそう松野に話しかけると松野は一瞬、顔を暗く曇らせ半田を見つめ返した。半田はそんな松野の表情に眉を潜め再度同じ言葉を口にした。
「え? だから、こんなに天気がいいんじゃ、円堂が喜んでサッカーやるなって。」
「あぁ、うん、そうだねー」
「だろ? あと、風丸もさっき、『こんなに気持ちがいい日はひとっ走りしたくなる』って言ってたしなー」
「へー」
笑顔でクラスメイトの話しをする半田を横目で見ながら松野は唇を前に突き出した顔で相槌を打っていた。
「松野? どうした??」
のが、悪かった。
半田はクラスメイトの話しを中断しふて腐れた顔の松野の顔をひょいっと覗きこんできた。
「え?」
松野は、突然話しが中断し顔を覗かれたものだから低い機嫌の悪い声で返事をしてしまった。一瞬、まずいかな。と思ったがその声に傷ついたのか、悲しそうな表情でこちらを見てくる半田を見ていると、まぁいいや。と思った。
「えと、話し、つまんなかった??」
「………」
確かに話しはつまらなかった。
自分にはどうでもよい人間の話しばかりされ、肝心の自分の話しが出て来ないのだから。
「ま、つの??」
「半田、」
半田の泣き顔、傷ついた顔、怒りに満ちた顔。全て僕を思った顔と思うと体中から喜びが溢れ出す。
半田はいつも、僕のことだけを考えていればいい。
いつの間にかに当たり前のように思うようになっていた歪んだ考え。
「な、に??」
目の前の半田の表情が少し歪む。
あれ、そんなに怖い表情してたかな。
「うーん。あのさ、半田はさ、今、僕と話してるんじゃん?」
カタッとお弁当箱を乱暴に地面に置く。その反動で甘い卵焼きがポロリと地面に落ちた。
「う、ん」
「なのに、なんで、僕には関係のない人間の話しばかりするの?」
松野は卵焼きを一瞬チラリと目をやると、ひょいと指で摘んだ。そして、卵焼きを力いっぱい潰してやる。半田はその松野の歪んだ行動に目を大きく開いた。
「ねぇ、半田、君は、誰のもの?」
ベチャベチャと卵焼きは汚い音をたてて地面におちてゆく。地面に体をたたき付けられた卵焼きはもはや原形など留めてはいない。
「意味が、わから、ない、よ」
まるで、今の歪んで、歪んで、歪んで、歪みきった僕の考えのように。
届かない思いは、いつか、原形を留めない形で僕の胸の中で暴れ回る。
End .for癒兎さま
あとがき
癒兎さまへ。
どうだったでしょうか…。
リクエスト通りにはほど遠いものになってしまいましたが、喜んで頂けると幸いです。
最後にキリ番リク、本当にありがとうございました!!
まちあ。