一目見たときから気に入らなかった。
自分と同じプレイスタイルで同じ1年。でもって、光と影になりうる相棒だっている。
何から何までそっくりそのまんま。大きく違うところと言うと、あいつは隠れる能力、俺は見つける能力を持っているというところだが、今はそれさえも気に入らない。なんでたって俺が見つけなくちゃならないんだよ。そっちから見つけられにこいよって話だ。じゃあ見つけなければいいじゃないかって言ったって、俺の目をナメんなよ。嫌でも視界に入っちまうんだって。端から端まで何なら恥まで見渡せば、ほーら。いた。
俺の大嫌いな、俺の天敵。
私立誠凜高等学校1年バスケ部背番号11番の黒子テツヤ。
「うわあああああ!!もー!!そこまで覚えちゃってる自分が憎い!!憎い!!」
今日は久々の部活がOFFの日だから普段中々行けない場所にある店まで買い物に来ていた。しかし、それが仇になるとは思わなかった。まさか、店がある市内が黒子のいる誠凜のある市内と一緒だと誰が気づくだろうか。そんな中で唯一助かったのは俺がホークアイだったこと。それのお陰で、やっぱり当たってしまった嫌な予感に気付くことができた。
店の目の前にある交差点の向こう側に黒子がぼぉーっと突っ立っていた。生憎俺は店のショーウィンドウから見ているため奴に気づかれることはない。
しかし、こうじっくり見ていると黒子は影が薄いのにも程があるだろうというくらい影が薄い。交差点で待っていっても黒子に気づかずに進みぶつかってしまった人がたくさんいる。その度に驚かれていた。
あいつは、もうずっとあの世界にいたのか、とふと思う。
ああいう誰にも気付かれない世界に。
気付かれない、ということに失望したことはないのだろうか。悲しくなったことはないのだろうか。
いや、むしろ、そんな世界に慣れてしまったのだろう。気付かれない、ということがあいつにとっては息をすることと同じくらい当たり前なのだろう。だから、悲しくなったり失望したりしないのだ。
けれど、
「………」
そんなの、少なくともずっと俺は悲しい。
色んな世界を見てきたから分かる、だなんてそんな大口を叩くつもりはないが、誰かに気付かれない世界なんて悲しいに決まってる。
だからだろうか、あいつがこんなにも気に食わないのは。
悲しいことに平気になれていく。
弱いくせに、強く見える。
隠れてるくせに、見つけられてしまう。
気が狂うったらありゃしねぇ。
気づいたら、俺は店から飛び出していた。目の前の交差点の信号が青に変わり、大勢の人間が交じりあう。その中で黒子も同じように交じりあい、消えていく。
「く、そっ!ぜっってぇーみっけてやるっし!!」
人をかき分け、かき分ける。
影だかなんだか知らない。気に食わない。大嫌い。同族嫌悪。
「黒子っ!」
掴んだ腕にはしっかりと感触があった。
ほら、おまえはやっぱり存在しているだろう?
「…高、尾くん?」
「はっ!お前のことなんかすぐに見つけられんだからな!」
「…はぁ。…え、と…どうしたんですか?」
交差点のど真ん中。
キョトンとした顔で黒子がこっちを見ている。「どうしたんですか?」ってどうしたんだろう。こんなとこで黒子を見つけて俺はどうしたかったんだろう。
「いや、別にどうしたかった訳もなくて、ただ、お前が隠れるから、見つけたかった訳で、あれ?」
「大丈夫ですか、高尾くん」
「ん?」
お前を見つけるためだけに俺は飛び出した。
なんて馬鹿みたいなんだろ。
冷静になると一気に顔が熱くなった。
「…とりあえず、歩きましょうか。高尾くん、あそこのお店にいましたよね?」
「はぁっ?!気づいてたの?」
「だって、ずっとこっちを見ていたから。」
「マジかよ…うわああ…恥ず…なんていうか…」
「どうかしました?」
「…なんでもねぇよ。」
なんていうか、俺、あいつのこと大好きみたいじゃん。
end
自分と同じプレイスタイルで同じ1年。でもって、光と影になりうる相棒だっている。
何から何までそっくりそのまんま。大きく違うところと言うと、あいつは隠れる能力、俺は見つける能力を持っているというところだが、今はそれさえも気に入らない。なんでたって俺が見つけなくちゃならないんだよ。そっちから見つけられにこいよって話だ。じゃあ見つけなければいいじゃないかって言ったって、俺の目をナメんなよ。嫌でも視界に入っちまうんだって。端から端まで何なら恥まで見渡せば、ほーら。いた。
俺の大嫌いな、俺の天敵。
私立誠凜高等学校1年バスケ部背番号11番の黒子テツヤ。
「うわあああああ!!もー!!そこまで覚えちゃってる自分が憎い!!憎い!!」
今日は久々の部活がOFFの日だから普段中々行けない場所にある店まで買い物に来ていた。しかし、それが仇になるとは思わなかった。まさか、店がある市内が黒子のいる誠凜のある市内と一緒だと誰が気づくだろうか。そんな中で唯一助かったのは俺がホークアイだったこと。それのお陰で、やっぱり当たってしまった嫌な予感に気付くことができた。
店の目の前にある交差点の向こう側に黒子がぼぉーっと突っ立っていた。生憎俺は店のショーウィンドウから見ているため奴に気づかれることはない。
しかし、こうじっくり見ていると黒子は影が薄いのにも程があるだろうというくらい影が薄い。交差点で待っていっても黒子に気づかずに進みぶつかってしまった人がたくさんいる。その度に驚かれていた。
あいつは、もうずっとあの世界にいたのか、とふと思う。
ああいう誰にも気付かれない世界に。
気付かれない、ということに失望したことはないのだろうか。悲しくなったことはないのだろうか。
いや、むしろ、そんな世界に慣れてしまったのだろう。気付かれない、ということがあいつにとっては息をすることと同じくらい当たり前なのだろう。だから、悲しくなったり失望したりしないのだ。
けれど、
「………」
そんなの、少なくともずっと俺は悲しい。
色んな世界を見てきたから分かる、だなんてそんな大口を叩くつもりはないが、誰かに気付かれない世界なんて悲しいに決まってる。
だからだろうか、あいつがこんなにも気に食わないのは。
悲しいことに平気になれていく。
弱いくせに、強く見える。
隠れてるくせに、見つけられてしまう。
気が狂うったらありゃしねぇ。
気づいたら、俺は店から飛び出していた。目の前の交差点の信号が青に変わり、大勢の人間が交じりあう。その中で黒子も同じように交じりあい、消えていく。
「く、そっ!ぜっってぇーみっけてやるっし!!」
人をかき分け、かき分ける。
影だかなんだか知らない。気に食わない。大嫌い。同族嫌悪。
「黒子っ!」
掴んだ腕にはしっかりと感触があった。
ほら、おまえはやっぱり存在しているだろう?
「…高、尾くん?」
「はっ!お前のことなんかすぐに見つけられんだからな!」
「…はぁ。…え、と…どうしたんですか?」
交差点のど真ん中。
キョトンとした顔で黒子がこっちを見ている。「どうしたんですか?」ってどうしたんだろう。こんなとこで黒子を見つけて俺はどうしたかったんだろう。
「いや、別にどうしたかった訳もなくて、ただ、お前が隠れるから、見つけたかった訳で、あれ?」
「大丈夫ですか、高尾くん」
「ん?」
お前を見つけるためだけに俺は飛び出した。
なんて馬鹿みたいなんだろ。
冷静になると一気に顔が熱くなった。
「…とりあえず、歩きましょうか。高尾くん、あそこのお店にいましたよね?」
「はぁっ?!気づいてたの?」
「だって、ずっとこっちを見ていたから。」
「マジかよ…うわああ…恥ず…なんていうか…」
「どうかしました?」
「…なんでもねぇよ。」
なんていうか、俺、あいつのこと大好きみたいじゃん。
end
嫌い嫌いも好きのうち