僕は影だ。
それは、昔も今も変わることのない僕の在り方。僕がコートに立てる理由、僕がバスケットプレイヤーとしていることが出来る条件。だから、もしそれを否定されたら僕がコートに立つための意味が無くなってしまう。バスケットプレイヤーとしての僕は亡くなってしまう。いや、人、独りとしての僕でさえも亡くなるだろう。
バスケが好きだ。
そのために影になり、生きてきた。それを無くしてしまったら。僕なんていう人間にこの地に立つ意味なんてあるのだろうか。
僕は、影なのだから。
「あれ、黒子?」
休日、1人、図書館にいた僕はピクリと肩を揺らした。突然名前を呼ばれるとは思ってもいなかったから。と、いうより僕の名前を呼ぶ人なんかいないと思っていたから、と言った方があっているかもしれない。まあ、それほど僕の存在に気づく人が少ないということだ。先ほどから僕の近くに座ろうとする人は僕を見て驚いてばかりだ。「こんなところに人なんていたのか」と言わんばかりに。僕は僕でそんな反応は慣れている。
だが。僕は恐る恐る名前を呼ばれた辺りに顔を向けた。
「よっ!」
真ん前にいたのは、秀徳で見かけた高尾くんだった。
「…こ、こんにちは。」
でた声は驚きを隠せていない。何て言ったって、人に気付かれないのはしょっちゅうだが、人に気付かれるのは慣れていないから。
「どったの?こんなとこで!」
「…声が大きいですよ… 貴方こそ、どうしたんです?」
人に気付かれる、というのは以前秀徳戦をしたときに一度体験したがこうして日常生活で体験するとは思ってなかった。
なんだろうか。
この、気持ちは。
僕は影なのに。
「んー?黒子がここにいるのが外から見かけたからー?」
誰にも気付かれない。
それが僕の在り方で生き方。
誰にも見つかってはいけない、見つけられない。そうやって今まで生きてきて、これからもそうやって生きていくものだと思っていた。
だから、コートないではパスを見つからずに繋いで行く。気づかれずにドリブルをする。消えるシュートを打ってきた。休日も、街に見かけた人がいたらなるべく声はかけない。その人の日常に無駄に関わらない。1人で、1人だけの時間を過ごしてきた。
なのに、どうして。
僕は目の前で僕をじぃっと見つめてくる二つの目を見つめた。その中には両方とも僕が写っていた。僕がいる世界を、彼は過ごしていた。
僕は、初めて、無駄に人に関わってしまった。
「なんですか、それ…」
「あれ、なになに?見つかっちゃってびっくりしてる系?」
「…」
僕は影だ。
それは、否定しないし、させない。
「高尾くん。」
「なっにー?」
「貴方の声は凄くうるさいです。」
「えー、そうでもなくねー?」
けれど、
「だから、外でお茶でもしませんか?」
嬉しかった。
「え?お茶?」
「えぇ。マジバでもどうでしょう。」
貴方に気付いてもらえて、見つけてもらえて嬉しかった。
僕の名前を、僕の姿を、僕の存在を見つけてもらえて嬉しかった。
そんな気持ちも、否定したくないのは何故だろう。
影ではなくなってしまったのに、嬉しくて、嬉しくて、否定したくない。
「いいぜー、マジバでも。」
「じゃあ、行きましょうか」
たまには、無駄に人に関わってもいいでしょうか。
「高尾くん」
きっと、無駄に関われるのは今だけだから。
「ん?」
「…いえ、なんでもないです。」
いつか、君だけ、になれればいいな。
『ありがとう。』
End
それは、昔も今も変わることのない僕の在り方。僕がコートに立てる理由、僕がバスケットプレイヤーとしていることが出来る条件。だから、もしそれを否定されたら僕がコートに立つための意味が無くなってしまう。バスケットプレイヤーとしての僕は亡くなってしまう。いや、人、独りとしての僕でさえも亡くなるだろう。
バスケが好きだ。
そのために影になり、生きてきた。それを無くしてしまったら。僕なんていう人間にこの地に立つ意味なんてあるのだろうか。
僕は、影なのだから。
「あれ、黒子?」
休日、1人、図書館にいた僕はピクリと肩を揺らした。突然名前を呼ばれるとは思ってもいなかったから。と、いうより僕の名前を呼ぶ人なんかいないと思っていたから、と言った方があっているかもしれない。まあ、それほど僕の存在に気づく人が少ないということだ。先ほどから僕の近くに座ろうとする人は僕を見て驚いてばかりだ。「こんなところに人なんていたのか」と言わんばかりに。僕は僕でそんな反応は慣れている。
だが。僕は恐る恐る名前を呼ばれた辺りに顔を向けた。
「よっ!」
真ん前にいたのは、秀徳で見かけた高尾くんだった。
「…こ、こんにちは。」
でた声は驚きを隠せていない。何て言ったって、人に気付かれないのはしょっちゅうだが、人に気付かれるのは慣れていないから。
「どったの?こんなとこで!」
「…声が大きいですよ… 貴方こそ、どうしたんです?」
人に気付かれる、というのは以前秀徳戦をしたときに一度体験したがこうして日常生活で体験するとは思ってなかった。
なんだろうか。
この、気持ちは。
僕は影なのに。
「んー?黒子がここにいるのが外から見かけたからー?」
誰にも気付かれない。
それが僕の在り方で生き方。
誰にも見つかってはいけない、見つけられない。そうやって今まで生きてきて、これからもそうやって生きていくものだと思っていた。
だから、コートないではパスを見つからずに繋いで行く。気づかれずにドリブルをする。消えるシュートを打ってきた。休日も、街に見かけた人がいたらなるべく声はかけない。その人の日常に無駄に関わらない。1人で、1人だけの時間を過ごしてきた。
なのに、どうして。
僕は目の前で僕をじぃっと見つめてくる二つの目を見つめた。その中には両方とも僕が写っていた。僕がいる世界を、彼は過ごしていた。
僕は、初めて、無駄に人に関わってしまった。
「なんですか、それ…」
「あれ、なになに?見つかっちゃってびっくりしてる系?」
「…」
僕は影だ。
それは、否定しないし、させない。
「高尾くん。」
「なっにー?」
「貴方の声は凄くうるさいです。」
「えー、そうでもなくねー?」
けれど、
「だから、外でお茶でもしませんか?」
嬉しかった。
「え?お茶?」
「えぇ。マジバでもどうでしょう。」
貴方に気付いてもらえて、見つけてもらえて嬉しかった。
僕の名前を、僕の姿を、僕の存在を見つけてもらえて嬉しかった。
そんな気持ちも、否定したくないのは何故だろう。
影ではなくなってしまったのに、嬉しくて、嬉しくて、否定したくない。
「いいぜー、マジバでも。」
「じゃあ、行きましょうか」
たまには、無駄に人に関わってもいいでしょうか。
「高尾くん」
きっと、無駄に関われるのは今だけだから。
「ん?」
「…いえ、なんでもないです。」
いつか、君だけ、になれればいいな。
『ありがとう。』
End
僕は影だ