いつか君を可愛くできたらいいなとは思っていた。いや普段でも凄く可愛いですけど。けれど、こんないとも簡単にその日が来るとは思ってはいなかった。
「前髪がすげえ邪魔」
練習終わりの部室で火神くんは長い前髪をいじりながらそうぽつりと呟いた。ちらりと怪訝そうな表情をしている火神くんをみると長く目にかかっている前髪はとても邪魔そうだった。部活の練習にも支障がでてしまいそうだ。まあ前髪くらいでどうのこうのなるような性分を彼は持ち合わせていなさそうだが。
「切ったらどうです?」
そう聞くと火神くんはうーん、と唸り声を一つあげた。凄く微妙な彼の反応からすると切りに行くのはいけすかないらしい。多分、面倒臭いのだろう。ある程度伸びきった火神くんの髪型に目をやった。ボサボサの髪型はなんだか暑苦しそうだ。もうすぐ夏休みに入って部活の量だって増える。そしたら余計にその髪型は鬱陶しいだろう。
僕はそこまで考えて「あ、」と小さく声をこぼした。
暑苦しくて鬱陶しいといえばこの前カントクが似たようなことを言っていたような気がする。『鬱陶しいから前髪留めようかなー』そう言いながら乱雑にまとめられた部室の片隅から取り出していたものを思い出した。
「火神くん、これはどうですか?」
火神くんにあるものを差し出すと彼は只でさえ細い目を細目ながら僕の手元を見つめた。
「なんだそりゃ」
「ぱっちん留めです」
「ぱっちんどめぇ?」
「こうやって使うんです」
僕はそういうと火神くんの長い前髪に手を伸ばした。赤黒い彼特有の髪は意外とさらさらしている。僕はカントクが自分の前髪を分けていたのを見よう見まねで火神くんの前髪も分けてあげる。そのため分け方がクラスの女子のよく見るような髪型になってしまったがそれは仕方ない。火神くんはその間気持ち悪いくらい静かになって僕の動作をじっと見ている。何時もは忙しく動いている腕さえ今はきちんと両手揃って膝の上に乗っかっていた。僕はちょうどいい量に左右の髪を分け、彼の細い髪に髪留めを絡ませ力いっぱいに火神くんのおでこに押し付けた。するとぱっちん留めというように髪留めはぱっちんと音を鳴らし、火神くんは「痛っ!」と悲鳴をあげた。
「できましたよ、火神くん」
「できましたよ、じゃねぇよ!力強く押し付けすぎだっつの!いってぇじゃねぇかよ!」
火神くんはほんのり赤くなってしまった部位を撫でながらぶうぶう文句垂れている。けれど、いくら文句を言ったって今の君ではなんの迫力もない。僕は一歩火神くんに近づき、くいっとぱっちん留めをした火神くんの顔を真上の自分の方に向かせた。火神くんは目をぱちくりさせている。
「何すんだよ、くろこ」
「可愛い」
真っ赤なぱっちん留めで左に前髪を流した火神くんはダランと前髪を下ろしているときよりもスッキリしていて凄く可愛らしい。ボサボサでワイルドだったはずの髪型も今は可愛らしく見える。
「とても可愛らしいです。火神くん。」
僕がそう言うと耳まで真っ赤に染めながらうっせえと漏らす火神くん。
なんと可愛いのだろう。
ああ、でも。と僕は火神くんの唇に人差し指を当てながら言った。
「誰にも見せたくないので実用性はないですね。」
するとまた顔を赤くする君。僕はフフッと笑い声を溢した。今は照れる君もぱっちん留めをしている君もどんな君も全て可愛らしいです。
End
「前髪がすげえ邪魔」
練習終わりの部室で火神くんは長い前髪をいじりながらそうぽつりと呟いた。ちらりと怪訝そうな表情をしている火神くんをみると長く目にかかっている前髪はとても邪魔そうだった。部活の練習にも支障がでてしまいそうだ。まあ前髪くらいでどうのこうのなるような性分を彼は持ち合わせていなさそうだが。
「切ったらどうです?」
そう聞くと火神くんはうーん、と唸り声を一つあげた。凄く微妙な彼の反応からすると切りに行くのはいけすかないらしい。多分、面倒臭いのだろう。ある程度伸びきった火神くんの髪型に目をやった。ボサボサの髪型はなんだか暑苦しそうだ。もうすぐ夏休みに入って部活の量だって増える。そしたら余計にその髪型は鬱陶しいだろう。
僕はそこまで考えて「あ、」と小さく声をこぼした。
暑苦しくて鬱陶しいといえばこの前カントクが似たようなことを言っていたような気がする。『鬱陶しいから前髪留めようかなー』そう言いながら乱雑にまとめられた部室の片隅から取り出していたものを思い出した。
「火神くん、これはどうですか?」
火神くんにあるものを差し出すと彼は只でさえ細い目を細目ながら僕の手元を見つめた。
「なんだそりゃ」
「ぱっちん留めです」
「ぱっちんどめぇ?」
「こうやって使うんです」
僕はそういうと火神くんの長い前髪に手を伸ばした。赤黒い彼特有の髪は意外とさらさらしている。僕はカントクが自分の前髪を分けていたのを見よう見まねで火神くんの前髪も分けてあげる。そのため分け方がクラスの女子のよく見るような髪型になってしまったがそれは仕方ない。火神くんはその間気持ち悪いくらい静かになって僕の動作をじっと見ている。何時もは忙しく動いている腕さえ今はきちんと両手揃って膝の上に乗っかっていた。僕はちょうどいい量に左右の髪を分け、彼の細い髪に髪留めを絡ませ力いっぱいに火神くんのおでこに押し付けた。するとぱっちん留めというように髪留めはぱっちんと音を鳴らし、火神くんは「痛っ!」と悲鳴をあげた。
「できましたよ、火神くん」
「できましたよ、じゃねぇよ!力強く押し付けすぎだっつの!いってぇじゃねぇかよ!」
火神くんはほんのり赤くなってしまった部位を撫でながらぶうぶう文句垂れている。けれど、いくら文句を言ったって今の君ではなんの迫力もない。僕は一歩火神くんに近づき、くいっとぱっちん留めをした火神くんの顔を真上の自分の方に向かせた。火神くんは目をぱちくりさせている。
「何すんだよ、くろこ」
「可愛い」
真っ赤なぱっちん留めで左に前髪を流した火神くんはダランと前髪を下ろしているときよりもスッキリしていて凄く可愛らしい。ボサボサでワイルドだったはずの髪型も今は可愛らしく見える。
「とても可愛らしいです。火神くん。」
僕がそう言うと耳まで真っ赤に染めながらうっせえと漏らす火神くん。
なんと可愛いのだろう。
ああ、でも。と僕は火神くんの唇に人差し指を当てながら言った。
「誰にも見せたくないので実用性はないですね。」
するとまた顔を赤くする君。僕はフフッと笑い声を溢した。今は照れる君もぱっちん留めをしている君もどんな君も全て可愛らしいです。
End
君を可愛くしたい