小説 | ナノ




昨夜散々降った雪は朝になるとぴったりと降るの止めていた。しかし止んだといえ昨夜の雪の量だ。地面は一面の白。俺はその上を滑らない様に慎重に歩いて行く。踏み締める様に歩くとざくざくいう雪達は雪合戦には充分という程積もっている。学校に着いたらサッカー部の奴らでも誘って雪合戦でもしようかな。こんなに積もってるなら結構でかいのが作れそうだ。
…そうそう。今俺目がけて飛んできてるぐらいの大きさのが。


「え?」


気付いた時にはもう遅くベシャという音と共に視界が突然真っ白に染まった。そして数秒後にひんやりとした冷たさが顔全体を襲い始めた。


「冷たっ」


ポロッと落ちた雪の次に視界に映ったのはピンクと青のボーダーラインが入ったニット帽を被ったあいつの顔だった。


「ま、松野!!!」
「めーちゅー。おはよー半田。」


何がめーちゅー。だ。人を馬鹿にするのもいい加減にしろ。というか、朝から人の顔面に何の前フリもなく雪玉をぶつけるなんてこいつどうかしてるんじゃないか?
俺はそんな煮えたぎるような怒りをなんとか抑え松野の歩く半歩後ろをゆっくりと歩いた。けらけらと笑う背中を睨みつけながら。
もう頭きた。絶対仕返ししてやる。


「松野!」


辺りは一面の白。まあ、今の俺には辺りは一面の武器と言った方が言いのだろうか。まあそんなのはどうでもよくて。俺はただ目の前の敵目がけて手に握った雪玉を投げつけた。


「なに …ぶっ」


雪玉は見事命中。俺は得意げな表情で顔面雪だらけになっている松野をみた。


「めーちゅー。」
「…やりやがったな」


松野は口の右端をひくひく言わせながらこちらを見てくる。何だろうこの優越感。


「半田の…くせにっ!!」


と、思ったのもつかの間、直ぐさまにブォンと勢いのいい音を鳴らしながらまた俺の顔面に雪がぶつけられた。これがまた痛い。


「なんだそののび太のくせに見たいな感じはっ!! 畜生!!!」


俺もそれに負けじと雪をぶつけて返す。するとまた松野も雪玉を投げてくる。
俺達はそんなおうむ返しを暫く続けた後。まあ正確に言うと松野が俺に雪をぶつけた直後。松野は何かに気付いたかの雪だらけの顔をハッとあげた。そしてただでさえ真ん丸い目をもっと丸くさせ大声で叫んだ。


「遅刻!!」


時計の針はもうすでに08:10を差していた。あと5分で始業してしまうじゃないか。俺達は雪合戦をしていた事も忘れるぐらいの早さで通学路を走りはじめた。
ああ、もう今日は散々だ。朝から顔面に雪玉をぶつけられるは、雪合戦して服はぐしょぐしょになるは、遅刻はするは。きっと学校に行ったってまた雪合戦だろう。次はもっと大人数で。考えただけでも溜息が止まらない。


「はあ。」


言った傍から俺の口から溜息が漏れた。そんな溜息に気付いたのか走りながら松野がこちらを向いた。そしてニット帽を揺らしながらまたあはは、と笑う。


「冬って楽しいねー。」


松野はそう笑顔で言うんだ。

ああ、もうそんな笑顔。やめてくれ。
さっきまで散々な日だと思っていたのに。

雪が降った次の日なんてろくなことはないって思っていたのに。

君のその笑顔一つで今日はいい日かも、なんて思い違いをしてしまうんだから。


ほら。思い違いのおかげで俺の視界がつるんと回転するんだ。
いや多分8割近くは凍結した地面の上を走っていたからなんだけど。
今だけは思い違いだって思い違わせて。


「半田の面白いとこいっぱい見れるからねー。」


前言撤回。
やっぱり今日は散々な日だ。




End

冬の楽しみかた




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